基幹システム
日本企業が使い始めたのはいつから? ERPの歴史
「ERP」が日本で使われるようになったのは1992年からです。それ以前に、ERPは欧米で普及していました。ERPが欧米で、次いで日本で広まるに至った経緯など、ERPの歴史をご紹介します。
そもそもERPとは
ERPは「Enterprise Resources Planning」の略で、「企業資源計画」と訳されます。
ただし、システムを指す場合には「統合基幹業務システム」、「基幹系情報システム」といった名前で呼ばれるシステムを表す言葉と捉えるのが一般的です。「ERPパッケージ」という名称で開発・販売されることもあり、現在、ERPは多くの企業で導入・運用されています。
ERPは要するに、企業の基幹系業務を統合して総合的な経営を行っていくためのシステムです。あるいは企業経営に欠かせない基幹業務システムをまとめたものともいえます。ERPは企業内のすべての業務を統合し、部門間でシームレスなデータ連携を可能にするものです。
ERPの最も大きな特徴は「情報の一元管理」にあるといわれます。具体的には、経営、営業・販売、倉庫・物流、経理・財務、生産、調達、人事などの異なる部門間のデータをすべて統一された仕様によってデータベースに収めることが可能です。その結果、企業の今の状況を正確かつリアルタイムに把握し、経営戦略・戦術に役立てることができます。つまり、企業内に点在する情報を一箇所に集めていつでも参照し、企業経営に活用できるというのがERPの最も重要な機能です。
ERPの歴史
ERPの歴史について知ると、ERPの何たるかがさらに深く理解できるはずです。簡単に振り返ってみましょう。
ERPの誕生
企業でビジネスにコンピューターが利用されるようになったのは、1960年代から1970年代にかけてのことです。当初は基幹業務用の大型コンピューターである「メインフレーム」が大企業を中心に導入されました。最初の商用メインフレームである「IBM System/360」が登場したのは1964年でした。
メインフレームが使われたのは大半が企業の基幹業務と呼ばれる分野でした。受発注業務、販売管理、在庫管理、財務会計などがその主なものです。定型的な情報処理をコンピューターが行うようになると業務効率が飛躍的に向上し始めます。しかし、メインフレームによる業務処理システムはそれぞれの部門ごと、業務内容ごとに異なる設計で作られていたため、システム同士のデータを突き合わせることや連携させること、システムは相互接続を円滑に行うことが困難でした。
そこで誕生したのがERPです。分散化された基幹システムを同じアーキテクチャーで統一された一つの統合システムとして作り上げることで、データを一元管理するというのがその目的でした。世界最初のERPは、1973年にドイツに本社を持つSAP社がリリースした「R/1」です。R/1は、当初は数が少なかったものの、徐々に欧米の企業に導入されていきました。
なお、ERPの概念は、生産管理の手法である「MRP(Material Resource Planning)」が起源になっているといわれています。MRPは「資材所要量計画」と訳され、在庫に注目して生産計画を立てる管理手法のことです。
日本にもERP登場
ERPが日本に入ってきたのはR/1誕生から遅れること約20年、1992年のことです。この年、SAPの日本法人、SAPジャパンが設立されました。その頃、欧米では「BPR(Business Process Re-engineering)」という経営コンセプトが脚光を浴び、BRPを実現するシステムとしてERPが使われるようになっていました。BRPとは既存の業務内容、業務フロー、組織構造、ビジネスルールなどを抜本的に改革し、リエンジニアリング(再構築)することで業務効率や生産性を向上させるという手法です。
日本でもこのBPRに注目が集まり、一種のブームのようにERPの導入が始まりました。しかし海外と違って日本には独特の商習慣があり、ミスマッチが生じます。日本の商習慣に合わせるにはERPをアドオンによってカスタマイズしなければならず、コストがかさみ、当初は導入に成功する企業の数は限られていました。
ERPが日本で普及するに至った理由
しかし、BPRブームがきっかけでERPが日本でも注目されるようになったのは事実です。1990年代後半からは会計制度をグローバル化する改革(いわゆる「会計ビッグバン」)が進み、このこともERPの導入を促していきました。
そして2010年代になると、日本の商習慣にマッチしたERP、国産ERPを含めた製品がリリースされるようになります。この頃から徐々に対費用効果が向上して、大企業だけでなく中小の企業もERPの導入に積極的になっていきます。
そして2010年代後半に入ってからERPの普及に大きく貢献したのが、「クラウドERP」の台頭です。クラウド化によってERP導入を進めやすくなりました。現在ではERPを導入するためにオンプレミスの環境を用意する必要はなくなり、低コストでスピーディーにERPを活用できる環境が整っています。必要とあれば、多くの企業がいつでもERPを導入できるような時代になりました。
ERPの今後
今後のERPはクラウド活用による低コスト化がますます進んでいくことでしょう。クラウドERPはWebブラウザからアクセス可能なため、モバイルワークやリモートワークでも広く活用されるようになるはずです。また、クラウド化によって仕様が統一されることで、これまで日本企業向けに特化し、いわばガラパゴス化してきた感のある部分が改められ、徐々にグローバル化の方向に向かっていくと考えられます。
AIやIoT技術によるERPの進化も期待できます。ERPがIoTによって生成・送信されるデータの受け皿となり、あるいはAIによって今よりも多くの業務が自動化されるなどの可能性があります。これらの新しい技術によって、ERPの持つ役割はさらに拡大されていくでしょう。
これまでERPは、とくに日本においてはいくつかの紆余曲折を経て普及し、定着してきました。ERPの歴史を知り、そして今後の展望についても思い描くことができれば、今、自社でERPをどのように活用していくべきかというビジョンも見えてくるでしょう。
※「SAP」及びその他のSAPの製品やサービスは、ドイツ及びその他の国におけるSAP SE(又は SAPの関連会社)の商標若しくは登録商標です。
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