IoT
製造業に大きな変化をもたらすIIoT(インダストリアルIoT)とは
IoTが世間で注目される一方で、産業界において非常に重要な意味を持つ概念として捉えられているのが「IIoT」です。IIoTの概要や、IIoTが製造業に対してもたらす大きな変化などについて解説します。
IIoT(インダストリアルIoT)とは
IIoTは「Industrial IoT(インダストリアルIoT)」と呼ばれることもあるとおり、「IoT」を前提とした用語です。IoT(Internet of Things)は日本語で「モノのインターネット」と訳され、電化製品、医療器具、自動車、建物など多種多様なモノがインターネットに通じて相互につながることで可能となるサービスやビジネス、もしくはそれを実現するための技術を指します。
そして、IIoTとは産業用のIoTのことです。IIoTでは産業機械や装置、設備、システム、人の動きなどのモノやコトがネットワークで相互接続されます。これにより現場作業の効率化、見える化、生産管理や在庫管理の自動化などが可能になります。
例えば、センサーを備えた生産機器や設備が得た情報を一つのプラットフォームで一元管理できれば、それだけで製造工程を効率的かつ厳格にコントロールできるようになります。あるいは生産設備が故障の前兆を察知しアラートを発することで、事故の未然防止(予兆保全)も可能になるでしょう。
IIoTが製造業にもたらす変化
IIoTを活用すれば、製造工程管理、工場設備の安全管理、製品の品質管理、生産管理、在庫管理、流通管理などの管理業務の効率化が期待できます。それによって得られるメリットは、突き詰めれば製造コストの削減と、製品の品質・価値の向上が両立できるという点にあります。
ただし、IIoTは単に生産現場におけるオペレーション効率の改善のみに役立つ技術ではありません。IIoTは製品にこれまでとはまったく異なる付加価値を与え、商品開発のあり方を根本的に変化させ、製造業のみならず流通業や小売業を巻き込んだイノベーションを促進する可能性があります。
例えばモノを売るためには、これまでは製品の機能や性能を常に進化させ、短いサイクルで開発して販売することで流行を形成し、消費者の需要を作り出していくといった手法が有効とされてきました。しかし、このようなビジネスモデルは製品の機能・性能が成熟していけばやがて頭打ちになります。また消費者の要求も多様化し、よりパーソナルにカスタマイズされた機能や性能が求められるようになってきています。
となれば、製造する製品にはごくベーシックな機能のみが備わっていて、消費者の要求や使い方に応じて必要な機能を付け加えていくという形が当たり前になっていくかもしれません。そうなれば消費者はサービスに対して課金するように、製品に付け加えられた機能に対して対価を支払うようになると考えられます。
あるいはIoTとIIoTが組み合わさることで、消費者の使い方を製品自身がデータ収集し、製品自身が消費者に対して必要な機能を提案することができるようになる可能性もあります。
IIoTとIoTの連携は、製造業をサービスベースの業種へと変化させるともいわれています。モノそのものを売るというよりは、モノに付帯するサービスを売ることで収益を上げていく、そうしたビジネスモデルが今以上に一般化していくと考えられます。
IIoTの課題
IIoTが普及していくにはまだまだ多くの課題も残されています。
インターネットなどのネットワークを経由して情報が行き来するとなれば、まず万全なセキュリティ対策の構築が欠かせません。IIoTの通信がハッキングされれば工場が正常に稼働しなくなる可能性があります。IoTによって収集されたプライベートな情報が傍受され、悪用される危険性もたやすく予測できます。
さまざまな機器やシステム同士を接続するための規格の統一も必要です。海外ではIIoTに使用するためのオープンで共有可能な通信規格やプログラム言語を策定し、サプライチェーンを含めて互いに簡単に「つながる」ことのできる環境づくりが進んでいます。
中でもドイツは「インダストリー4.0」というコンセプトを掲げ、製造業におけるオートメーション化・データ化・コンピューター化によって第四次産業革命を推進するというプロジェクトに取り組んでいます。日本では2017年3月に経済産業省が「コネクテッドインダストリーズ(Connected Industries)」支援政策を発表し、「さまざまなつながりにより新たな付加価値が創出される産業社会」をめざす試みが始まったところです。
接続のためのバックボーンとなる通信ネットワークについても、これまで以上の高品質化が推進されなくてはなりません。ネットワークには、高速で遅延がなく、接続が切れない品質が求められます。次世代の通信規格5Gがこの点において、期待されています。他にもセンサー、データベースに関する技術、データの取得・処理・移動を行うための技術、データを解析するためのビッグデータやAI関連技術の進化も要します。
そして、これらの技術を扱うエンジニアが不足していることが、現時点での最も大きな課題といえるでしょう。
IIoTが産業にもたらす変化は非常に大きなものになる可能性があります。IIoTとその関連技術はいずれ巨大な経済的利益を生み出すようになり、我々の生活や社会そのものを根本的に変えることが予測されています。IIoTに対する注目度は今後ますます高まっていくでしょう。
あわせて読みたい
関連記事はこちら
医療分野におけるウェアラブルデバイス活用
さまざまな情報がデータ化され共有される昨今、生体情報もデータ化して活用する動きが見られます。スマートフォンなどの「持ち運ぶデバイス」ではなく、「身につけるデバイ...
詳細はこちら
ウェアラブルデバイスとは? 企業の活用例も紹介
ウェアラブルデバイスとは、手首や頭など身体に装着して使用するタイプの端末を指します。ウェアラブルデバイスには複数の種類があり、装着する場所や用途などはさまざまで...
詳細はこちら
デジタルツインとは? できることやメリット・デメリットを解説
IoTやAI、5Gなどの普及とともに注目されるようになってきた「デジタルツイン」というワード。製造業の今後の進化を担うカギとなるテクノロジーと見なされ、他分野で...
詳細はこちら
セキュリティ・バイ・デザインの考え方やメリットについて解説
インターネットが発達し、業務・私用を問わず私たちの生活にネットワーク接続はなくてはならないものとなりました。加えて、近年ではIoTの普及もあり、情報セキュリティ...
詳細はこちら
ビッグデータとは? AIやIoTとの関係も合わせて解説
近年、IoTやAIなどの技術の普及により、さまざまなデータの活用が注目されています。そのなかで、ひときわ聞く機会が増えた用語として「ビッグデータ」が挙げられるで...
詳細はこちら
IoTデバイスのセキュリティ脅威と対策
業務の効率化や生産性の向上が期待できるとして、さまざまな業界でIoTの活用が進んでいます。IoTデバイスはネットワーク(インターネット)に接続することから、セキ...
詳細はこちら
IoTデバイスとは? 種類や活用されている分野・事例など
あらゆるモノをネットワークに接続するIoTは、さまざまな業種で導入が進んでいます。IoTを実現するためのデバイスである「IoTデバイス」にもさまざまな種類があり...
詳細はこちら
スマートホスピタルとは? 医療業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)
医療業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)といえるスマートホスピタルが、実現に向けて動き出しています。病院などの医療施設は近い将来、いま以上に高度な医療...
詳細はこちら
「仮想化」とは何か? 仕組みやメリット・デメリットなど
仮想化技術を取り入れてリソースの無駄を省き、コスト削減やセキュリティ強化も実現しているという企業が増えています。今回は、サーバー、デスクトップ、ストレージという...
詳細はこちら
スマートファクトリーとは? メリット・デメリットや今後の展望など
グローバル競争にさらされる製造業にとって、スマートファクトリーの導入は必須であり急務の課題ともいわれています。スマートファクトリーという用語の概要、メリットとデ...
詳細はこちら
どのような被害が発生しているのか? IoTのサイバー攻撃事例
2010年代半ば頃からIoT機器を標的としたサイバー攻撃が発生するようになっています。IoT機器へのサイバー攻撃はどのような被害をもたらすのか、そしてそのような...
詳細はこちら
品質管理徹底のための製造業のトレーサビリティ
さまざまな業界で導入が進んでいるトレーサビリティは、製造業においても商品の品質管理や顧客との信頼性構築のために不可欠なものといわれています。トレーサビリティとは...
詳細はこちら
RFIDとは? 仕組みやメリット・デメリットを解説
電波を使った通信によってタグに格納されたID情報を非接触で読み取る「RFID」。今、その用途が広がりを見せ、業務効率化の推進や新サービスの創出などに活用されつつ...
詳細はこちら
医療のIoT「IoMT」の展望と活用事例
あらゆるモノをインターネットに接続し、ネットワークを介して情報を共有する「IoT」。医療分野では「IoMT(Internet of Medical Things...
詳細はこちら
IoEとは? その概要とIoTとの違いなど
近未来のテクノロジーとして注目されている「IoE」は、従来のIoTを発展させた概念として世界的に注目されています。ここではIoEの概要やIoTとの違い、実際の導...
詳細はこちら
トレーサビリティとは? 重視される業界と技術について解説
物流や製造などの業種では、製品の品質向上や安全性の確保のために「トレーサビリティ」と呼ばれる技術が導入されはじめています。ここでは、トレーサビリティの概要と重視...
詳細はこちら
無線モジュールとは? IoT機器に組み込むメリットと注意点
多くのIoT機器が備えている無線通信機能。しかし、IoT機器の開発とあわせて無線回路をチューニングし、無線を可能にするソフトウェアを新規設計するには専門的なノウ...
詳細はこちら
IoTと5Gを組み合わせるメリットとは?
IoTと5G、この2つはしばしば同時に語られることの多い技術です。両者を組み合わせるとどのようなメリットが生まれるのでしょうか。IoTと5Gの関係性や、今後、両...
詳細はこちら
IoTプラットフォームとは? 概要や選び方を解説
IoT(モノのインターネット)は急速に進化し続けています。IoTプラットフォームを提供する国内外のベンダーも増え、企業がIoTを導入し活用しようと考えたときのハ...
詳細はこちら
IoTで活用されるセンサーとは? 種類や特長を徹底解説
IoTには実に豊富な種類のセンサーが利用されています。対象物の動きや変化を検知して何らかのアクションを起こすことは、IoTの重要な機能の一つです。けれども、では...
詳細はこちら
予防保全とは? IoT活用で実現できること
工場の生産ラインで使用する機械設備の故障を事前に予測し、計画的に点検や部品交換などを行うのが「予防保全」と呼ばれる保全方法です。そしてIoT時代を迎えたいま、予...
詳細はこちら
IoT時代のキーテクノロジー「エッジコンピューティング」とは?
膨大なデータが行き交うIoT時代において、従来のクラウドコンピューティングに加えてその必要性が高まっているのが「エッジコンピューティング」です。エッジコンピュー...
詳細はこちら
IoTとm2mの違いとは? 基本をしっかり押さえよう
ここ数年、IoTという言葉はニュースなどで見かける機会が増え、急速に世の中に広まりました。では、M2Mについてはどうでしょうか。M2Mの概要を知ると、IoTとの...
詳細はこちら
製造業でIoTを活用する際に大切なセキュリティ対策
IoTを工場に導入して成功している事例が増えています。しかし、その際に注意しなければならないのがIoTを活用したシステムに対するセキュリティ対策です。どのような...
詳細はこちら
IoTのメリットと分野別の活用事例
IoTは私たちにどんなメリットをもたらし、どんな分野で活用され、今後どのように発展していくのでしょうか。今回はIoTについて、分野別の活用事例を中心にご紹介しま...
詳細はこちら
日本の産業を支えるIT・ICT・IoTの違いとは?
IT、ICT、IoT……いずれも日本の産業を支える技術分野を表す重要な言葉です。これらの用語について大まかには意味を理解できていても、それぞれの違いや関わり合い...
詳細はこちら
インダストリー4.0とは? IoTとの違いについても解説
「インダストリー4.0」は、IoTとも関連性が高く、日本における今後のものづくりの方向性を左右する重要な用語と言われています。インダストリー4.0とは何なのか、...
詳細はこちら