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品質管理徹底のための製造業のトレーサビリティ

さまざまな業界で導入が進んでいるトレーサビリティは、製造業においても商品の品質管理や顧客との信頼性構築のために不可欠なものといわれています。トレーサビリティとは何か、製造業にとってどのような意味を持つのかなど、その概要を説明します。

  1. トレーサビリティとは
  2. トレーサビリティが注目されるようになった背景
  3. 製造業におけるトレーサビリティの現状
  4. 製造業におけるトレーサビリティの重要性

トレーサビリティとは

「トレーサビリティ」とは、商品の生産から流通、販売、消費までの過程が追跡可能であること、そしてその過程を把握・記録することを指す用語です。英語の「Traceability」はTrace(追跡)とAbility(能力)を組み合わせた造語で、日本語では「追跡可能性」と訳されます。また、トレーサビリティを実現する仕組みをトレーサビリティシステムと呼ぶことがあります。

トレーサビリティは食品業界、流通業界、IT業界などでよく使われている用語です。そして製造業でも重要な言葉と認識されています。

製造業におけるトレーサビリティは、原材料調達から加工、組み立て、流通、販売、消費者に届いた後までのすべての段階で、製品や部品にロット番号やシリアル番号、識別コードを付与することなどによって、製造日、製造者、製造場所、仕入先、販売元などを記録保存し、製造履歴を追跡できるようにすることを指します。

このことによって、消費者は安心して製品を購入でき、メーカー側は製品に何らかのトラブルが起きたとしても速やかな対応が可能になります。とくにメーカーの場合は、大きな損失に結び付くようなリスクを回避できるというメリットがあります。

トレーサビリティが注目されるようになった背景

トレーサビリティが広く知られるようになったのはここ20年ほどのことです。きっかけは2000年代の初め頃に発生したBSE(牛海綿状脳症)問題でした。この問題を受けて、BSEの検査体制を確立し、牛の生産履歴を把握し管理することが求められることになりました。その結果、農林水産省は2003年にいわゆる牛トレーサビリティ法を導入、日本で飼育されているすべての牛に10桁の個体識別番号を付与し、牛肉に関しても業者に仕入れや販売の記録することを義務づけました。

一方、自動車の生産におけるトレーサビリティはリコール問題と密接な関わりがあります。とくに2014年に起きたグローバル市場を巻き込むエアバッグのリコール問題は、トレーサビリティが自動車メーカーだけの課題ではないことを印象づけるものでした。

その後もさまざまなリコール問題が続いたこともあって、完成品としての自動車を提供するメーカーはもちろん、部品サプライヤーやディーラー、販売会社など製造から流通のすべての工程を含む組織横断的で一気通貫によるトレーサビリティシステムを確立することが求められるようになったのです。

製造業におけるトレーサビリティの現状

国内の製造業者の中には、トレーサビリティの導入に積極的に取り組む企業がある一方、導入意思はあるものの思うように進まないという企業も少なくないようです。とくに中小企業では、ノウハウ不足やコストの問題が阻害要因となっているケースが目立ちます。

しかし、昨今では製品に対する消費者の目が以前よりも厳しくなってきています。製品の安全性に対する意識が高くなっている他、SNSなどインターネットを介して情報が拡散されやすいこともその理由でしょう。何か問題が起きたとき、企業が速やかに対応できているかという点に関しても事細かくチェックされるようになっています。

そうした状況に対し、IoTを活用してトレーサビリティを実現するというソリューションも登場しています。IoTデバイスとクラウドツールなどを組み合わせると、それほど大掛かりなトレーサビリティシステムを構築しなくても、在庫、生産、物流などのプロセスで商品に関するデータを収集・蓄積することができるようになります。

また、それらのデータを分析し、品質や生産性向上につなげる改善サイクルを作り出すことも可能です。こうした新しい技術が、製造業におけるトレーサビリティに変化をもたらしつつあるといえます。

製造業におけるトレーサビリティの重要性

最後に、改めて製造業におけるトレーサビリティの重要性について整理しておきます。

商品の品質に関わる問題が起きたとき、企業に求められるのはとにかく迅速で的確な対応です。トレーサビリティは問題の原因を素早く突き止め、消費者が受けるかもしれない被害を最小限に抑えることに役立ちます。

そしてそれは顧客からの信頼の継続に直結します。リスクに対して事前に備えていれば、問題が発生してから調査し、対応策を考え、何らかの手を打つ場合よりもコストを抑えられるというメリットもあります。

さらにいえば、トレーサビリティを製造・流通・販売のプロセスに組み入れていること自体が、自社と自社製品に対する信頼性の向上につながります。企業価値を高めるためにもトレーサビリティは重要な意味を持ちます。

トレーサビリティをリスクマネジメントという側面のみで捉えると守りの姿勢に入ってしまい、環境を整えることに対して消極的になってしまうかもしれません。しかし、トレーサビリティによって製品の品質を向上させ、企業のイメージアップを図れるといったポイントを理解すれば考え方も変わるはずです。企業戦略の一環としてトレーサビリティ導入に取り組めるのではないでしょうか。

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