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経営戦略

企業が社員の健康管理を行うべき理由とは

長時間労働などの悪習慣がなかなか改善されず、うつなどのメンタルヘルス不調の増加も問題視される昨今、社員をはじめとするすべての従業員の健康は、個人のためのみならず、企業にとっても重要な課題となっています。特に、社員は企業運営において主軸となる存在といえますが、企業がこうした社員の健康管理を行うことにはどのような意義があるのか、今、改めてその必要性について考えてみましょう。

  1. なぜ必要なのか? 企業が社員の健康管理を行うべき理由
  2. 企業が社員の健康管理を行う意義
  3. 社員の健康管理のために企業は何をすれば良いのか

なぜ必要なのか? 企業が社員の健康管理を行うべき理由

労働契約に関する基本的な事項を定めた労働契約法(平成20年3月施行)の第5条には、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と記されています。

これは企業の「安全配慮義務」を規定しているものですが、「身体等の安全」には心身の健康も含まれるとされます。労働契約法に罰則規定はありませんが、安全配慮義務を怠った企業には多額の損害賠償を命ずる判例が存在します。労働者の安全と衛生についての基準を定めた労働安全衛生法や裁判例を見ても、企業は労働者の健康管理を行うべきものとみなされています。

こうした法律による規定を別にしても、社員が健康を害して仕事に支障が出れば、組織としての労働生産性が低下することは明らかです。さらに社員の健康管理をないがしろにしていることが外部に知られれば企業イメージも悪くなるでしょう。社員の健康管理は会社の利益と直結した問題だと言えます。

企業が社員の健康管理を行う意義

企業が社員の健康管理を行う意義についても整理しておきましょう。社員の健康保持のためにかかるコストを将来への投資と捉えることを健康投資といいますが、これには法令遵守のみにとどまらないメリットがあります。

1.労働生産性の向上・業務効率化

社員の健康状態が維持されることは、常に一定の生産性が保たれることを意味します。それだけではなく、社員の企業に対する信頼感や仕事へのモチベーションのアップによって生産性が向上することも考えられるでしょう。健康な職場は活気を生み出します。実際に健康管理に積極的に取り組んでいる企業の多くが、その理由として労働生産性の向上と業務効率化を挙げています。

2.企業イメージ・企業価値の向上

健康管理に積極的に取り組み、実績を重ね、評価を受けることで企業イメージの向上を図ることができます。そのことが一般消費者へのアピールや採用強化にもつながるでしょう。サービス残業など過重労働による心身の不調などは社会問題としても取り上げられ、多くの人々の関心事となっています。

3.離職率の改善

健康が損なわれる可能性がある、あるいは社員の健康に対して無関心な職場環境で長く働き続けたいと考える社員はいないでしょう。現状、離職者が増えているとすれば、健康管理にも問題があるのかもしれません。その場合、健康投資によって、離職率以外にも休職率、欠勤率なども改善される可能性があります。

4.経営上のリスク管理

安全配慮義務の履行という側面ももちろん見逃せません。安全配慮義務を怠ったとみなされれば損害賠償などを求められることもあります。

社員の健康管理のために企業は何をすれば良いのか

社員の健康管理とは、社員が病気になったときに何か対策すれば良いというものではありません。健康が損なわれないようできる限りの予防策を講じる必要があります。社員のフィジカルとメンタルの健康を維持するために実施しなければならないこと、実施すると良いことを見てみましょう。

1.健康診断の実施

健康診断は労働安全衛生法で定められた義務であり、労働者全員が受けなければなりません。「常時使用する労働者」に対しては雇用した際に「雇入時の健康診断」と、年に1回の「定期健康診断」を実施します。常時使用する労働者とは、「1年以上使用する予定で、週の労働時間が正社員の4分の3以上」である者で、パートやアルバイトも含まれます。

2.長時間労働の改善

労働基準法36条に基づく時間外労働に関する労使協定、いわゆる36協定に違反している場合は直ちに改善する必要があります。企業は法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える時間外労働を命じる場合、労組などと書面による協定を結んで労働基準監督署に届け出なければなりません。違反すれば6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金となります。

3.ストレスチェック

労働安全衛生法の一部改正を受けて、2015年12月から労働者が50人以上いる事業所では毎年1回、ストレスチェックを実施することが義務づけられています。それ未満の場合でも努力義務となっており、実施が望ましいです。
ストレスチェックは、ストレスに関する質問票に労働者が記入して提出することで、自分のストレスがどのような状態にあるのかを調べられる検査です。メンタルヘルス不調を予防するにはまず個人が自分自身のストレス状態に気づき、セルフケアを行うことが必要だとされています。ストレスチェック制度はこの1次予防のために導入されています。

4.ヘルスリテラシーの向上

ヘルスリテラシーとは健康に関する情報を入手して理解し、効果的に活用するための意欲や能力のことです。社員のヘルスリテラシーの向上を促すには、メンタルヘルスや生活習慣病関連の知識の提供や改善指導を行う研修・社内講習、相談窓口の設置、専門家による面談などを実施すると良いでしょう。

5.福利厚生の充実

社員の健康への関心を高め、また健康増進にもつながる支援として福利厚生の充実にも取り組みたいところです。具体例としては、社内スポーツクラブ(部活動)の設置、マッサージルームやジムルームの常設または施設の優待利用、体を動かすイベントの開催などが挙げられます。

社員の健康管理は法令遵守にとどまらない企業の課題と言えます。健康管理への投資はすぐには目に見える成果を得られないようにも思えますが、実際には多くのメリットがあり、近年では戦略的に取り組む企業が増えています。企業として実施すべきことは徹底して行い、さらに独自の施策を探してみてはいかがでしょうか。

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