経営戦略
従業員満足度の重要性と調査方法、高め方とは

従業員満足度を向上させることに尽力する企業が増えています。なぜ今、従業員満足度を上げることが重要視されているのでしょうか。従業員満足度という考え方が企業にとって重要な理由、そしてどのようにすれば従業員満足度を向上させられるのかといった点について解説していきます。
従業員満足度とは
「従業員満足度(ES:Employee Satisfaction)」とは、従業員が勤務している企業に対して抱く満足度を表す指標のことです。
従業員満足度を決定づける要素としては、給料面などの待遇、福利厚生、人的・物的における職場環境、仕事に対するモチベーション、ワークライフバランスなどが挙げられます。現在の企業にとって、これらの要素に配慮して働きやすい環境を整え、従業員満足度を上げることは重要な経営課題とされています。
わかりやすい例を挙げると、従業員の満足度を無視して長時間労働などを違法に強制して業績を上げようとすれば、「ブラック企業」と呼ばれるようになり、離職率が上がることが予想されます。そうした「企業ファースト」の考え方は企業の古い体質を感じさせるものであり、社会的な批判を浴びることにもなります。これに対し、「従業員ファースト」の考え方を導入すれば、「ホワイト企業」と呼ばれる方向へ舵を切ることができ、従業員満足度の向上にもつながります。
もう一つ、かつて企業や事業の目的は利益の追求といわれてきましたが、現在では企業は社会的な役割を果たすために存在し、利益は継続的に社会の役に立つための条件という認識が広まってきています。従業員満足度を上げ、社会の一員である従業員が幸福感をもって仕事に携わる環境を提供することもまた、企業の社会的な役割の一つといえるのではないでしょうか。
企業における従業員満足度の重要性
従業員満足度が低い会社では、従業員は仕事に対するポジティブで充実した心理状態を得ることが困難になります。仕事に対するモチベーション、会社に対する愛着や思い入れが失われ、従業員のエンゲージメントが低下した状態となるでしょう。社内でのコミュニケーションも通り一遍のものに終始するといった傾向が現れるようになり、作業効率もダウンしていく危険性があります。
その結果、不満に耐えきれず会社を辞める従業員も現れるでしょう。離職する従業員の数が増えるのは、会社にとって大きな痛手となります。従業員満足度の低下が招くのはこうした社内におけるネガティブな連鎖です。
従業員満足度が一定以上に保たれていれば、社内の空気は自然に活気を帯びてきます。従業員満足度の向上は、従業員エンゲージメントや仕事の生産性、従業員の定着率アップなどポジティブな方向への転換を促す原動力になるものだといえます。
企業が従業員満足度の向上に取り組むメリット
従業員満足度を上げることによるメリットを整理してみましょう。以下のようなメリットが考えられます。
- 従業員のモチベーション向上
- 従業員の会社に対するエンゲージメントの向上
- 仕事の生産性、作業効率の向上
- 離職率の改善
- 採用力の強化
- 企業のイメージアップ
- 企業の業績アップ
ただし、従業員満足度を上げるには、長期的視野に立った継続的な取り組みが必要という側面もあります。そのため短期間で簡単にこれらのメリットを得られるというわけにはいかないでしょう。しかし、環境が十分に整備されればこうしたメリットを得て、企業が成長するという好循環を生むことができるはずです。
従業員満足度と顧客満足度(CS)の関係
従業員満足度と似た言葉に「顧客満足度(CS:Customer Satisfaction)」があります。
この2つは相反するもののようにも思えますが、実は互いに深く結びついているとも考えられます。従業員満足度を上げることができれば従業員には精神的な余裕ができ、顧客に対して丁寧な対応、気遣い、気づきに基づいた提案などができるようになることが期待できます。それにより、自然と顧客満足度を引き上げられる可能性があります。
一方、顧客満足度のみを重要視して、「顧客ファースト」に徹してしまうのは問題があります。というのも、顧客のことばかりを優先して従業員に過度なサービス精神や我慢を強いることになれば、結果として従業員満足度は低下してしまうからです。
実際には、企業、従業員、顧客のそれぞれを大切にできるバランスを保つことが最も重要です。従業員が生き生きと仕事に取り組み、そのことにより顧客の満足度が上がり、その結果企業のイメージがアップして利益も増大する、といったサイクルを作り上げるのは決して不可能なことではありません。
従業員満足度の調査方法
従業員満足度を調査するには、従業員に対するアンケートを実施するのが一般的です。アンケートは自社で作成することも、外部のコンサルティング会社などに委託して設計することもできます。こうしたアンケート調査は従業員満足度調査(ES調査)と呼ばれます。
ES調査を実施する際は、調査目的、質問項目、回答手段(紙のアンケート用紙か、Webツールを利用するかなど)、集計・分析方法などについて決めていきます。
質問項目は調査目的をどのように設定するかによっても異なりますが、概ね、以下のようなことについて満足度をたずねるものになるでしょう。
- 仕事内容に対する満足度
- 業務量・労働時間に対する満足度
- 労働環境に対する満足度
- 職場の人間関係に対する満足度
- 上司のマネジメントに対する満足度
- キャリアプランに対する満足度
- 教育・研修制度に対する満足度
- ワークライフバランスに対する満足度
- 企業文化に対する満足度
- 組織のモラル・コンプライアンスに対する満足度
- 評価制度への満足度
- 給与・福利厚生に対する満足度
実際のアンケート例文は、「仕事内容に対する満足度」をたずねるものであれば、「現在の仕事にやりがいを感じているか?」「仕事を通じて自分の考えや価値観を表現できているか?」といった内容にします。そのうえで、「1.思う」「2.やや思う」「3.どちらでもない」「4.あまり思わない」「5.全く思わない」などの選択式にすると、集計・分析がしやすくなります。
また、調査後は、結果を受けて見つかった課題に対しどのような施策を実施していくのを検討することも重要です。
従業員満足度の高め方
では従業員満足度を向上させるために企業は何をすべきなのでしょうか。
まず必要なのは、自社の従業員が何を求めているかを理解することです。待遇や福利厚生、職場環境、モチベーションなど各種の要素もあります。さらにベーシックな部分では経営理念やビジョンへの共感、トップによるマネジメントへの理解、多くの人間が集まって醸し出す社内の空気感や社風といった要素も満足度を左右します。あるいは、オフィスの周囲の環境、掃除の行き届き方、社内での言葉遣いといった細かいことが影響を与えることもあるかもしれません。
これらは従業員と実際にコミュニケーションをしてみなければ、わからないことでもあります。アンケートや聞き取り調査を実施したり、懇談会を開いたり、ネガティブなものも含めて意見や感想を受け付ける仕組みを用意したりといった方法で、従業員との意思疎通を図っていきましょう。
従業員が求めていることを拾い上げ、対応できるものから改善をしていくことで、経営陣と従業員、そして従業員同士の信頼関係が構築されていきます。たとえすべての要求を満たすことができなくても、お互いを理解し、考えを共有することで信頼感が養われ、そのことが満足度の向上につながっていくでしょう。
従業員満足度の向上は、それを追求していくとなると非常に多くの努力や工夫が必要になります。しかし、経営陣と従業員、従業員同士を含めた協力体制のもとで従業員満足度を向上させることができれば、そのことが企業としての体力を強固なものにしていくはずです。まずできることは何か、それを考えることから従業員満足度の向上への取り組みを始めてみてはいかがでしょうか。
※本記事は、2019年6月18日に公開しました「従業員満足度の向上が企業に重要なわけ」の内容を更新し、公開しています。
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