経営戦略
マルチクラウドやハイブリッドクラウドは何ができるのか
マルチクラウドとハイブリッドクラウドは、いずれも現在、企業におけるクラウドサービスの運用方式の主流となりつつあります。両者はどのように異なり、それぞれ何ができるのかなど、マルチクラウドとハイブリッドクラウドの押さえておくべきポイントについて解説します。
クラウドの基本! パブリッククラウドとプライベートクラウド
マルチクラウドとハイブリッドクラウドについて説明する前に、まず理解しておくべき知識として、パブリッククラウドとプライベートクラウドの概要をご紹介します。
パブリッククラウド
パブリッククラウドは、企業や組織、個人など基本的に誰もが利用できるオープンなクラウドサービスです。
パブリッククラウドのメリットは、ユーザーが専用のハードウェアなどを所有していなくても、パソコンやスマートフォンなどの一般的な端末がインターネットにつながっていれば、必要なときに必要なだけソフトウェアやサーバー、ネットワークリソースを使うことができる点です。また利用したいときはオンラインで申し込みをすればすぐにアカウントが発行され、サービスを利用できます。
プライベートクラウド
これに対し、プライベートクラウドは、ユーザーとなる企業が自社専用のクラウドコンピューティング環境を構築し、社内の各部署や支社、グループ会社などで利用する、クローズドな形態のクラウドサービスです。
プライベートクラウドのメリットは、パブリッククラウドに比べてカスタマイズ性が高く、自社のニーズや事情に合った環境を構築できることです。また独自のセキュリティ要件を設定することで、高度なセキュリティ体制を構築・維持できます。
マルチクラウドとは
クラウドが普及するにつれ、単独のクラウドサービスをただ独立して使うだけというやり方は時代遅れになってきました。マルチクラウドとは、複数のクラウド業者が提供するパブリッククラウドを組み合わせて、自社に最適なクラウドコンピューティング環境を作り出す運用方式を意味します。
クラウドサービスごとに異なる機能を、変化するニーズに合わせて柔軟かつ迅速に組み合わせられるのがマルチクラウドの特徴です。クラウド事業者も特定の一社にこだわる必要がなく、自由に取捨選択できます。
ハイブリッドクラウドとは
ハイブリッドクラウドもまた、異なるクラウドサービスの利点を組み合わせた運用方式だと言えます。
マルチクラウドと違うのは、ハイブリッドクラウドはパブリッククラウドだけでなく、一般的にパブリッククラウドとプライベートクラウドの組み合わせを指すことです。パブリッククラウドとプライベートクラウドにはそれぞれ長所と短所があります。ハイブリッドクラウドを導入すれば、例えばパブリッククラウドの高い拡張性とコストパフォーマンスを活かしつつ、プライベートクラウドの高いカスタマイズ性とセキュリティ強化を実現することが可能になります。
マルチクラウドにできること
複数のパブリッククラウドのサービスを組み合わせるマルチクラウドでは、性能や料金などサービス内容の異なるクラウドサービスの中から、目的に応じて最適なものを選ぶことができます。複数のクラウドサービスはそれぞれを使い分けることも、サービス同士によっては連携させることも可能です。
マルチクラウドでは複数のクラウド業者のサービスを利用するのが一般的なため、万一、クラウド業者のサービスが終了したり、サービスに重大な問題が生じたりした場合でもリスクを分散できます。また、一つのクラウド業者やサービスに依存し、他社から新しく高機能なサービスが提供されたときに移行が難しくなるベンダーロックインを防ぐこともできます。
反面、利用するパブリッククラウドが多くなりすぎることで、管理が煩雑になることも考えられます。クラウドサービスごとの連携がうまくいかない場合、単なるサービスの寄せ集めになってしまうと、逆に作業効率が落ちてしまう危険性もあります。
ハイブリッドクラウドにできること
パブリッククラウド×プライベートクラウドのハイブリッドクラウドでは、ニーズの変化が大きい業務にはパブリッククラウドを、変化の少ない、あるいは機密性の高い業務や部門にはプライベートクラウドを利用するなどの使い分けが可能になります。
すべてをプライベートクラウドに頼る場合に比べて、ハイブリッドクラウドでは負荷を分散できる点も見逃せません。短期のプロジェクトなどで一時的に多くの処理能力が必要になる際にはパブリッククラウドにリソースを割り当てるなどすれば負荷を軽減できます。外部からの膨大なアクセスが予想される場合などはパブリッククラウドを利用し、ピークが過ぎた時点で通常に戻すというような運用もできます。これにより一時的に導入する機器に費用をかける必要がなく、導入コストの削減にもつなげられます。
さらに、パブリッククラウドをBCP(事業継続)対策に活用することも可能です。地震や津波などの災害時、不正アクセスやマルウェアによってシステムがダウンした際にもデータのバックアップを取り、主要業務を再開できる体制を整えられます。これはマルチクラウドの場合も同様です。
ただし、これもマルチクラウドと同じように、ハイブリッドクラウドにおいても扱うサービスが多くなり、システム構成が複雑化することで管理が煩雑になるおそれがあります。そのため、結局はシステム管理者の負担が増すことも考えられます。
企業のニーズが多様化するにつれ、クラウドサービスの利用方法・利用形態も多様化しています。パブリッククラウド、プライベートクラウド、そしてマルチクラウド、ハイブリッドクラウドなどそれぞれの特徴を知り、最適な運用方法を選択していきましょう。
あわせて読みたい
関連記事はこちら
IT-BCPとは? 対策の手順や策定時の注意点など
現代のビジネス環境では、ITシステムは欠かせない存在となりました。そのようなITシステムが災害やサイバー攻撃などのインシデントによってダウンしてしまうと、企業活...
詳細はこちら
ESG経営とは? 意味やメリット・事例などを解説
SDGsは企業や個人を問わず、地球上で活動するすべての人々が意識するべき目標です。多くの人が平和で豊かに暮らせるようになるために、世界規模で取り組みが進められて...
詳細はこちら
BCP対策とは?企業が実施すべきことを詳しく解説
BCP(事業継続計画)対策は政府も促進の取り組みを続けており、多くの企業の課題といえるでしょう。BCPの策定がまだの企業は、そもそも策定するべきか、策定するには...
詳細はこちら
AI人材に必要なスキルや育成方法など
近年、さまざまな分野でAIの活用が進んでいます。ビジネスでAIを上手く活用すれば、業務の効率化や生産性の向上だけでなく、新たな事業の創出なども期待できるでしょう...
詳細はこちら
政府が推奨する「クラウド・バイ・デフォルト原則」とは?
「クラウド・バイ・デフォルト原則」という言葉を見聞きしたことはあるものの、どのような意味か分からないという方も多いのではないでしょうか。クラウド・バイ・デフォル...
詳細はこちら
ウェルビーイングとは? 企業が導入する方法と得られるメリット
ウェルビーイングとは、個人や企業、社会の在り方に関する言葉です。より良い生活や社会を実現するための考え方として、ウェルビーイングが注目されています。この記事では...
詳細はこちら
クラウド移行とは? メリットや移行すべきシステムについて解説
新型コロナウイルス感染拡大の影響によるテレワークの普及もあり、社内システムをクラウドへ移行する企業が増えました。しかし、社内システムのクラウド移行はさまざまなメ...
詳細はこちら
生産管理のQCDとは? 強化のポイントも解説
近年、製造業をはじめとして多くの企業は人手不足の課題を抱えており、業務の効率化や生産性の向上が求められています。その際に特に意識すべきものが生産管理のQCDです...
詳細はこちら
製造業における技術伝承の課題と解決策
多くの日本企業は人手不足の課題を抱えており、なかでも製造業はより深刻な状況だといわれています。製造業においては人手不足と併せて、技術伝承における課題もあります。...
詳細はこちら
DX人材育成のポイントとは? 社内で育てて人材不足を解決
DXを推進するにあたって多くの企業で障壁となっているのが、DXを担う人材が不足しているという問題です。DX人材は市場でも不足が続いているため、社内のリソースを活...
詳細はこちら
DX戦略とは? 取り組むメリットや進め方のポイントなど
製品・サービス、ビジネスモデル、業務や企業文化の変革を実現するために必要とされているのがDX戦略です。企業がDX戦略に取り組むメリットや進め方のポイントについて...
詳細はこちら
販売管理とは? 目的と業務の流れ、システム導入のメリットなど
販売管理とはそもそもどんな目的で、どのようなことを行うものなのでしょうか。自社の業務内容に当てはめて考えることで、販売管理をもっと効率的にできるかもしれません。...
詳細はこちら
休暇中に働く? ワーケーションの始め方とメリット・デメリット
会社から離れたリゾート地などで休暇を取りながら、必要に応じて仕事をする「ワーケーション」が注目されています。新しい休み方であり、働き方でもあるワーケーションは、...
詳細はこちら
SaaSとは? PaaS、IaaSとの違いについても解説
従来のパッケージソフトに対して、「SaaS」を導入して使用する企業の数が増えています。SaaSとは何か、同じクラウドサービスであるPaaSやIaaSとは何が違う...
詳細はこちら
SDGsとは? 17の国際目標と国内における企業の取り組み
メディアなどで「SDGs(持続可能な開発目標)」という言葉を目にする機会が増えています。SDGsとはそもそもどのようなものなのか、その概要や日本国内の取り組み状...
詳細はこちら
製造業が取り組むべき5Sとは? 活動の進め方やメリットなど
業務改善や職場の環境改善のための取り組みとして「5S」または「5S活動」というものがあります。とくに製造業は、この5Sへの取り組みが不可欠ともいわれています。5...
詳細はこちら
日本のハンコ文化が続く理由と脱却するために必要なこと
契約書などの文書をやりとりする際にハンコを押すという文化が、ここまで深く根付いているのは日本だけです。しかし最近、そのハンコ文化がテレワーク普及の足かせの一つに...
詳細はこちら
従業員満足度の重要性と調査方法、高め方とは
従業員満足度を向上させることに尽力する企業が増えています。なぜ今、従業員満足度を上げることが重要視されているのでしょうか。従業員満足度という考え方が企業にとって...
詳細はこちら
なぜ進まないのか? ペーパーレス化の課題
ペーパーレス化することの重要性は分かっていても、なかなかオフィス内の書類が減っていかない……と感じてはいないでしょうか。なぜペーパーレス化が進まないのか、課題を...
詳細はこちら
IT活用がカギ! ダイバーシティ経営の課題と解決方法
国も積極的にかかわって推進しているダイバーシティ経営のビジョンは、企業がめざすべき姿を示していると同時に、それを実現しようとしている企業に対していくつかの課題も...
詳細はこちら
メリット・デメリットや導入効果を紹介! クラウドサービスの基礎知識
情報システムといえばオンプレミスが当たり前だった時代は過ぎ、現在、クラウドサービスを利用する企業が急増しています。クラウドサービスを導入し活用することでさまざま...
詳細はこちら
残業を減らして生産性向上! 長時間労働を改善する方法
残業を減らすこと、長時間労働を改善することは日本の企業にとって今、とても重要な課題となっています。2019年4月から働き方改革関連法も施行された中で、どのように...
詳細はこちら
e-文書法とは? 電子帳簿保存法との違いや押さえておくべきポイント
e-文書法、さらには電子帳簿保存法によって、企業が扱う保存すべき文書の多くを電子化して保存できるようになっています。しかし、e-文書法は2005年に施行された法...
詳細はこちら
健康経営とは? メリットや取り組みのポイントを紹介
従業員の健康管理は今や企業にとって重要な経営課題です。ブラック企業や労働者のメンタルヘルスが大きな社会問題となっている中、注目されているのが「健康経営」という考...
詳細はこちら
ブラック企業の特徴とは? ホワイト企業との違いを解説
多くの人を次々と採用し、長時間労働を強いて、ときにはパワハラやモラハラを用いながら労働者を酷使する「ブラック企業」。2013年には新語・流行語大賞も受賞したその...
詳細はこちら
企業が社員の健康管理を行うべき理由とは
長時間労働などの悪習慣がなかなか改善されず、うつなどのメンタルヘルス不調の増加も問題視される昨今、社員をはじめとするすべての従業員の健康は、個人のためのみならず...
詳細はこちら
就活生の企業選びのポイントはどのように変化しているのか?
就活生が自身の就職先を選ぶとき、企業のどこに着目し、どのようなポイントをとくに重要と考えているのでしょうか。時代とともに変わるその傾向を知れば、人材確保はもちろ...
詳細はこちら
法的責任も! 企業に求められる災害対策
震災をはじめ、風水害などに見舞われた際、企業には2つの災害対策が求められます。一つは従業員や顧客の安全確保であり、もう一つは重要業務の継続です。そのために平常時...
詳細はこちら