経営戦略
なぜ進まないのか? ペーパーレス化の課題
ペーパーレス化することの重要性は分かっていても、なかなかオフィス内の書類が減っていかない……と感じてはいないでしょうか。なぜペーパーレス化が進まないのか、課題を解決するためのヒントを探ってみましょう。
企業におけるペーパーレス化のメリット
まずはペーパーレス化によって得られるメリットを整理しておきましょう。
- 印刷代、紙代、保管代を削減できる
- 管理が簡単になり検索性が向上する
- 情報の共有がしやすい
- セキュリティが向上する
- バックアップや分散管理がしやすい
- 保管スペースが削減できる
- オフィス内やデスクがきれいになり、整理整頓できる
こうしたメリットは、社内の情報システムの整備、インターネットやクラウドサービスの普及、デバイスやアプリケーションの多様化などによって以前よりも一層大きなものになっています。現在では、デジタルデータ化することで、場所や時間を問わず情報にアクセスする、必要な情報を探す、共同で編集するといったことが簡単にできます。これらペーパーレス化によるメリットの多くは業務効率の向上につながるものです。
なぜペーパーレス化が進まないのか
仕事で扱う情報のほとんどがデータ化されている企業がある一方で、いまだに紙に印刷された書類や資料を使っている企業も存在します。なぜペーパーレス化は進まないのでしょうか。
紙に印刷した書類や手書きのメモを使う方が簡単だし、安心できるから……というのも理由の一つになるでしょう。実際に柔軟さが求められるなどの理由でデータ化が難しい書類もあり、フォーマットを統一するとすれば大変な手間がかかるというケースも考えられます。データ化して保存し閲覧するためのデジタル機器やソフトウェアを揃え、社内LANを構築し、インターネットにつないでセキュリティ対策を施すにはコストもかかります。
経営陣や社員のITリテラシーが不足している場合もあるかもしれません。特定の担当者がパソコンを使うというだけならまだしも、全社員がデジタルデータを扱うようにするには知識やスキルが不足しているというようなケースです。
また、データ消失、情報漏えい、システム障害、サイバー攻撃といったリスクを警戒してデータ化に踏み切れないという場合も考えられます。
あるいはペーパーレス化の意思はあったとしても、ちょっとした事情で簡単には進まないという企業も少なくないのではないでしょうか。例えば取引先の理解が得られない、各種契約書や書類を提出する際にハンコが必要、といったことがハードルになっているケースです。
ペーパーレス化に向けての課題
では、どうすればペーパーレス化が実現できるのかを見ていきましょう。おすすめは現状の課題をリストアップして、優先順位を付け、一つ一つを解決していくやり方です。
社内にまだペーパーレス化の有用性が十分に浸透していないのであれば、社内セミナーなどでペーパーレス化の意義などについての周知活動を行いましょう。社員一人ひとりのペーパーレス化に対する疑問や不安などもこの時点で払拭しておくべきです。
ITリテラシーやスキルの不足が認められる場合は、これらを補うための研修も必要になるでしょう。ただ、必ずしも全社員が同等レベルのスキルを身につける必要はないはずです。例えばパソコンを使わなくても、業務内容によっては書類を扱うのと近い感覚で使用できるタブレットとアプリが役立つ可能性があります。
ペーパーレス化のために一気にIT化を進めるのであれば、システムインテグレータ(SIer)などに依頼するというやり方もあります。しかし一方で、導入コストを抑えつつ、できるところから少しずつ必要なハードウェアやソフトウェアを利用する方法も可能でしょう。
スキャナやスキャナ機能付きの複合機を使って既存の書類をPDF化してパソコンに保存する、というのは多くの企業が行っている方法です。あるいは取引先がFAXを多用しているためペーパーレスFAXで対応している、といった事例もあります。
現在、すでにペーパーレス化がある程度進んではいるものの、拡大・浸透していかないという場合は、個別にペーパーレス化対象を見つけて解決を図ることになります。会議ではまだ紙資料を使うのが常態化しているなら、ペーパーレス会議システムの導入を検討してみてはいかがでしょうか。ハンコによる社内の承認手続きは排除するか、電子印鑑を利用するのが良いかもしれません。
総じていえば、とくに中小企業の場合は、ペーパーレス化は長期的に取り組んでいく方が上手くいくことが多いようです。一つの業務文書をペーパーレス化して、その有用性が明らかになれば、次へのモチベーションやアイデアも生まれてきます。PDF化した書類が増えてくれば、それらをタグ付けして整理し活用する方法を考えるなど、順次ペーパーレス化を進めていけば良いでしょう。
確認しておきたい「電子帳簿保存法」
ペーパーレス化を進める際にぜひ知っておきたいのが電子帳簿保存法の存在です。
電子帳簿保存法は1998年に制定され、その後、2016年、2018年に大きな改正が行われました。この法律は、会計帳簿や決算書などの国税関係の帳簿書類を、電子データ(電磁的記録)として保存することを認めたものです。現在ではスキャナ保存、スマートフォンやデジタルカメラによる電子データ保存も認められるようになっています。
帳簿や書類を電子データ化して保存すると、コスト削減、経理業務の効率化、保存体制の強化ができるといわれています。社内のペーパーレス化を進めるのであれば、この電子帳簿保存法の導入も視野に入れておきましょう。
ペーパーレス化を進めていくには、現時点で何が妨げになっているのかという課題を見つけることが先決です。その上で、それらを解決していくための計画を立て、時間をかけて取り組んでいきましょう。
あわせて読みたい
関連記事はこちら
IT-BCPとは? 対策の手順や策定時の注意点など
現代のビジネス環境では、ITシステムは欠かせない存在となりました。そのようなITシステムが災害やサイバー攻撃などのインシデントによってダウンしてしまうと、企業活...
詳細はこちら
ESG経営とは? 意味やメリット・事例などを解説
SDGsは企業や個人を問わず、地球上で活動するすべての人々が意識するべき目標です。多くの人が平和で豊かに暮らせるようになるために、世界規模で取り組みが進められて...
詳細はこちら
BCP対策とは?企業が実施すべきことを詳しく解説
BCP(事業継続計画)対策は政府も促進の取り組みを続けており、多くの企業の課題といえるでしょう。BCPの策定がまだの企業は、そもそも策定するべきか、策定するには...
詳細はこちら
AI人材に必要なスキルや育成方法など
近年、さまざまな分野でAIの活用が進んでいます。ビジネスでAIを上手く活用すれば、業務の効率化や生産性の向上だけでなく、新たな事業の創出なども期待できるでしょう...
詳細はこちら
政府が推奨する「クラウド・バイ・デフォルト原則」とは?
「クラウド・バイ・デフォルト原則」という言葉を見聞きしたことはあるものの、どのような意味か分からないという方も多いのではないでしょうか。クラウド・バイ・デフォル...
詳細はこちら
ウェルビーイングとは? 企業が導入する方法と得られるメリット
ウェルビーイングとは、個人や企業、社会の在り方に関する言葉です。より良い生活や社会を実現するための考え方として、ウェルビーイングが注目されています。この記事では...
詳細はこちら
クラウド移行とは? メリットや移行すべきシステムについて解説
新型コロナウイルス感染拡大の影響によるテレワークの普及もあり、社内システムをクラウドへ移行する企業が増えました。しかし、社内システムのクラウド移行はさまざまなメ...
詳細はこちら
生産管理のQCDとは? 強化のポイントも解説
近年、製造業をはじめとして多くの企業は人手不足の課題を抱えており、業務の効率化や生産性の向上が求められています。その際に特に意識すべきものが生産管理のQCDです...
詳細はこちら
製造業における技術伝承の課題と解決策
多くの日本企業は人手不足の課題を抱えており、なかでも製造業はより深刻な状況だといわれています。製造業においては人手不足と併せて、技術伝承における課題もあります。...
詳細はこちら
DX人材育成のポイントとは? 社内で育てて人材不足を解決
DXを推進するにあたって多くの企業で障壁となっているのが、DXを担う人材が不足しているという問題です。DX人材は市場でも不足が続いているため、社内のリソースを活...
詳細はこちら
DX戦略とは? 取り組むメリットや進め方のポイントなど
製品・サービス、ビジネスモデル、業務や企業文化の変革を実現するために必要とされているのがDX戦略です。企業がDX戦略に取り組むメリットや進め方のポイントについて...
詳細はこちら
販売管理とは? 目的と業務の流れ、システム導入のメリットなど
販売管理とはそもそもどんな目的で、どのようなことを行うものなのでしょうか。自社の業務内容に当てはめて考えることで、販売管理をもっと効率的にできるかもしれません。...
詳細はこちら
休暇中に働く? ワーケーションの始め方とメリット・デメリット
会社から離れたリゾート地などで休暇を取りながら、必要に応じて仕事をする「ワーケーション」が注目されています。新しい休み方であり、働き方でもあるワーケーションは、...
詳細はこちら
SaaSとは? PaaS、IaaSとの違いについても解説
従来のパッケージソフトに対して、「SaaS」を導入して使用する企業の数が増えています。SaaSとは何か、同じクラウドサービスであるPaaSやIaaSとは何が違う...
詳細はこちら
SDGsとは? 17の国際目標と国内における企業の取り組み
メディアなどで「SDGs(持続可能な開発目標)」という言葉を目にする機会が増えています。SDGsとはそもそもどのようなものなのか、その概要や日本国内の取り組み状...
詳細はこちら
製造業が取り組むべき5Sとは? 活動の進め方やメリットなど
業務改善や職場の環境改善のための取り組みとして「5S」または「5S活動」というものがあります。とくに製造業は、この5Sへの取り組みが不可欠ともいわれています。5...
詳細はこちら
日本のハンコ文化が続く理由と脱却するために必要なこと
契約書などの文書をやりとりする際にハンコを押すという文化が、ここまで深く根付いているのは日本だけです。しかし最近、そのハンコ文化がテレワーク普及の足かせの一つに...
詳細はこちら
従業員満足度の重要性と調査方法、高め方とは
従業員満足度を向上させることに尽力する企業が増えています。なぜ今、従業員満足度を上げることが重要視されているのでしょうか。従業員満足度という考え方が企業にとって...
詳細はこちら
IT活用がカギ! ダイバーシティ経営の課題と解決方法
国も積極的にかかわって推進しているダイバーシティ経営のビジョンは、企業がめざすべき姿を示していると同時に、それを実現しようとしている企業に対していくつかの課題も...
詳細はこちら
マルチクラウドやハイブリッドクラウドは何ができるのか
マルチクラウドとハイブリッドクラウドは、いずれも現在、企業におけるクラウドサービスの運用方式の主流となりつつあります。両者はどのように異なり、それぞれ何ができる...
詳細はこちら
メリット・デメリットや導入効果を紹介! クラウドサービスの基礎知識
情報システムといえばオンプレミスが当たり前だった時代は過ぎ、現在、クラウドサービスを利用する企業が急増しています。クラウドサービスを導入し活用することでさまざま...
詳細はこちら
残業を減らして生産性向上! 長時間労働を改善する方法
残業を減らすこと、長時間労働を改善することは日本の企業にとって今、とても重要な課題となっています。2019年4月から働き方改革関連法も施行された中で、どのように...
詳細はこちら
e-文書法とは? 電子帳簿保存法との違いや押さえておくべきポイント
e-文書法、さらには電子帳簿保存法によって、企業が扱う保存すべき文書の多くを電子化して保存できるようになっています。しかし、e-文書法は2005年に施行された法...
詳細はこちら
健康経営とは? メリットや取り組みのポイントを紹介
従業員の健康管理は今や企業にとって重要な経営課題です。ブラック企業や労働者のメンタルヘルスが大きな社会問題となっている中、注目されているのが「健康経営」という考...
詳細はこちら
ブラック企業の特徴とは? ホワイト企業との違いを解説
多くの人を次々と採用し、長時間労働を強いて、ときにはパワハラやモラハラを用いながら労働者を酷使する「ブラック企業」。2013年には新語・流行語大賞も受賞したその...
詳細はこちら
企業が社員の健康管理を行うべき理由とは
長時間労働などの悪習慣がなかなか改善されず、うつなどのメンタルヘルス不調の増加も問題視される昨今、社員をはじめとするすべての従業員の健康は、個人のためのみならず...
詳細はこちら
就活生の企業選びのポイントはどのように変化しているのか?
就活生が自身の就職先を選ぶとき、企業のどこに着目し、どのようなポイントをとくに重要と考えているのでしょうか。時代とともに変わるその傾向を知れば、人材確保はもちろ...
詳細はこちら
法的責任も! 企業に求められる災害対策
震災をはじめ、風水害などに見舞われた際、企業には2つの災害対策が求められます。一つは従業員や顧客の安全確保であり、もう一つは重要業務の継続です。そのために平常時...
詳細はこちら