経営戦略
製造業における技術伝承の課題と解決策

多くの日本企業は人手不足の課題を抱えており、なかでも製造業はより深刻な状況だといわれています。製造業においては人手不足と併せて、技術伝承における課題もあります。技術伝承は企業が存続し続けるために必要不可欠な要素ですが、このような課題に対してどういった対策をすればよいのでしょうか。
この記事では、技術伝承の概要から製造業における課題とその対策について解説します。
技術伝承とは
技術伝承とは、職人や技術者が持つ技術やノウハウを後継者に伝えて引き継ぐことです。技術伝承がしっかりとできていないと、技術やノウハウを会得した人材が退職した際などに業務が滞るリスクが発生します。
職人や技術者が会得している技術やノウハウには複雑なものもあり、簡単に技術伝承できないものも存在するでしょう。主に技術伝承で共有される情報には次の2種類が存在します。
- 形式知:目に見え、言葉で表せる情報
- 暗黙知:経験や勘・直感などの基づく言葉に表しづらい情報
技術伝承で特に課題となるものが暗黙知であり、熟練技術者がもつ技術やノウハウは企業にとって財産であり、しっかりと技術伝承できるかどうかは企業の未来に関わります。
製造業の技術伝承における課題
多くの企業とそこで働く従業員は、技術伝承の必要性について理解しているといえるでしょう。しかし、それでも技術伝承がうまくできていない現状にあります。その理由としては、主に次にあげるような課題の存在があります。
- 人材の確保ができない
- 属人化している業務が多い
- 技術の言語化が難しい
- 技術伝承のための時間が取れない
- ベテラン従業員と後輩間のコミュニケーション問題
伝承先となる人材が存在しなければ、技術伝承をすることはできません。高齢化が進んでいることもあり、人材を確保できない企業が多くなってきています。また、通常業務を行いながら技術伝承のための時間を取るとなると、こちらも人材不足によってなかなか難しい場合が多いでしょう。そのような背景の中、属人化した業務が、特定の人物の間でしか共有されない知識を生み出しています。結果的に技能伝承ができる人物は限定的になり、技能伝承が困難な状態になっていくのです。
長年の経験などにより身につけた技術は言語化することも難しい場合が多く、さらにベテラン従業員と後輩間のコミュニケーションが上手に取れていないことで、技術継承はさらに難しいものとなっています。このような状態が悪化しないよう、技能伝承への対策が早急に求められます。
技術伝承の課題を解消するための対策
前述のような技術伝承の課題に対して、具体的な対策方法を紹介します。
業務の標準化
前述のとおり、技術伝承を妨げる大きな要因は属人化した業務の存在です。属人化した業務を減らし、他の従業員が作業をしても同じ結果を得られるように業務の標準化を進める必要があります。
業務の標準化は、ものの作り方や仕事の進め方に対して、くり返し使用するために定めた取り決めです。標準化された業務は技術伝承しやすく、技術力の向上につながるだけでなく、品質の向上や効率化などの効果も期待できるでしょう。
マニュアル作成
業務の標準化を進めるために重要なことがマニュアルの作成です。マニュアルを作成するためには技術を言語化しなければなりません。属人的な業務のマニュアル化を進めることで、技術の言語化と標準化が促進できます。
マニュアルはすべてを文書化するだけでなく、写真や動画なども活用して技術をノウハウとして落とし込むようにするとよいでしょう。
データの収集・蓄積
マニュアルをはじめ、業務にかかわる情報は必要なときにすぐに参照できるようにしなければなりません。そのためには、各種情報をデータ化して蓄積・検索できるようにすることが有効です。
例えば、先程のマニュアルに関しても、紙ベースのマニュアルでは必要な情報を探すことに時間がかかる、などの課題が考えられます。しかし、データ化しておけば簡単に検索できますし、情報の修正も容易にできます。
マニュアルだけでなく、紙ベースの日報などもデジタル化して収集しておくことで、より多くの情報を扱いやすくなるでしょう。
業務改善
業務の標準化を進める上で、各種技術を言語化していくと不要な工程やもっと効率の良い工程などが見えてくる可能性があります。
各種業務をよりシンプルに、効率良く遂行するために業務改善も必要です。業務内容がシンプルになるほど技術継承も行いやすくなるため、業務の標準化やマニュアル作成と並行して進めることをお薦めします。
技術伝承は企業の未来を守るための重要課題の一つです。製造業における技術伝承の課題である業務の標準化、マニュアル作成などを意識して、技術伝承で困らないように計画的に進めていきましょう。また、技術伝承でもデジタル化は一つの解決策となり、DX推進における新たな社会環境への適応策としても活用できます。
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