経営戦略
休暇中に働く? ワーケーションの始め方とメリット・デメリット

会社から離れたリゾート地などで休暇を取りながら、必要に応じて仕事をする「ワーケーション」が注目されています。新しい休み方であり、働き方でもあるワーケーションは、政府も働き方改革の一環として推奨しており、周知活動に力を入れています。それに応えるように、実際にワーケーションを導入する企業も徐々に増えつつあります。ワーケーションとはどのような働き方なのかという概要と、導入することによるメリットとデメリット、ワーケーションの始め方などについて解説します。
ワーケーションとは
ワーケーションとは、リゾート地などで休暇を取りながら、社内のシステムにアクセスするなどして仕事をすることを指します。仕事(work)と休暇(vacation)を組み合わせた言葉で、2000年代の米国で始まったとされています。日本では2017年に日本航空(JAL)が働き方改革の一環として、「テレワーク・デイ」、「時差Biz」などとともにワーケーションに取り組むことを発表して話題になりました。
ワーケーションが日本で注目されるようになった背景には、日本の有給休暇取得率の低さがあります。日本では休暇を取るのが難しいと感じる人、長期間の休暇を取ることに罪悪感を覚える人が多いといわれています。日本のめざす働き方改革では「2020年までに有給休暇取得率を70%にする」という目標が掲げられていました。その結果は本記事執筆時点ではまだ出ていませんが、2019年の有給取得率は56.3%で、目標達成にはまだ遠い状況でした。
こうした背景もあり、いわば逆転の発想として、「休暇中でも仕事ができる環境を整備して、働いた時間を勤務時間に組み入れる」というのがワーケーションの考え方です。休暇中でも必要に応じて仕事をしたり、仕事をする時間を決めて働いたりすることで、むしろ気兼ねなく休暇を取れるようにしようという意図があります。
政府が推奨するワーケーション
ワーケーションは政府が推奨する働き方の一つでもあります。内閣府が沖縄に滞在してワーケーションを実施するモニターツアーを主催したり、環境省が国立・国定公園や温泉地でワーケーションが可能であることを積極的に発信し、そうした場所で遊び、働くというライフスタイルを提案したりといった活動を行っています。
とくに新型コロナウイルス感染拡大後は、感染リスクの少ない自然の中で仕事ができるというワーケーションのメリットがクローズアップされています。そのことも踏まえて、環境省は令和2年度の補正予算で「国立・国定公園への誘客の推進事業費及び国立・国定公園、温泉地でのワーケーションの推進事業費の間接補助事業」という支援策を打ち出しました。キャンプ地や旅館でWi-Fiを使えるようにし、スペース改装や設備改修を行うといった環境整備、ワーケーションツアーの実施などに対し、上限300万円の補助金を交付するというワーケーションの推進事業が進められています。
ワーケーションとテレワークの違い
ワーケーションと似た言葉にテレワークがあります。テレワークとはインターネットやパソコン、モバイル機器などを活用して、時間や場所の制約を軽減する働き方です。テレワークもまた「離れた(tele-)」と「仕事(work)」を組み合わせた造語です。
ワーケーションとテレワークとは、働く場所と目的に違いがあります。テレワークは自宅やサテライトオフィスなど、基本的に事前申請した場所で仕事をします。ワーケーションの場合、働く場所は休暇で宿泊中のホテルや帰省先の家などで、期間も限定的です。
また、テレワークには生産性の向上、ワークライフバランスの実現、オフィスコストの削減など、さまざまな目的があります。ワーケーションにもこのような効果がないわけではありませんが、主な目的は休暇を取りやすくすること、リフレッシュを図ることにあります。
ワーケーションのメリット
ワーケーションを取り入れるメリットをあらためて整理しておきましょう。ワーケーションは働く側、企業側の双方に次のようなメリットをもたらします。
1.長期休暇が取りやすくなる
1か月のバカンス休暇があるフランスなどと違い、日本では長期休暇を取るという習慣が根付いているとはいえません。しかし、旅先などから仕事ができれば、必要最低限の業務をこなしつつ休暇も楽しむなどフレキシブルな対応ができます。仕事とのかかわりを保つことで罪悪感が軽減され、安心感が得られるという側面もあるでしょう。結果として長期休暇も取りやすくなる場合もあるはずです。
2.リフレッシュによりモチベーションが向上する
休暇がもたらすリフレッシュ効果も見逃せないポイントです。仕事以外の時間をリゾートなどでゆったりと過ごせば、心身の疲れを癒やせるでしょう。家族と一緒の時間を作り、コミュニケーションを図る機会にもなります。ワークライフバランスを取り戻すことで、仕事や人生に対するモチベーションも向上できる可能性があります。
3.効率的な仕事ができる
短時間に限定的に仕事をすることで、かえって効率的に業務をこなせるという効果が期待できます。ワーケーションで集中力が途切れず生産性が上がるのは、これまでの事例でもよく指摘されているポイントです。オフィスではなく、リゾート地など、いつもと異なる環境で仕事をすることで、新しい発想やアイデアが得られる可能性もあります。
4.働き方改革対策に有効
企業側は働き方改革の取り組みの一つとして、ワーケーションを導入できます。社員の働きやすさをサポートすることで離職者を減らす効果、応募者にアピールして新しい人材を確保する効果も見込めるでしょう。
ワーケーションのデメリット
一方、ワーケーションにはデメリットもあります。こちらもしっかりと把握しておきましょう。
1.導入・運用コストがかかる
遠隔地から滞りなく仕事を行うにはインターネットやVPN(Virtual Private Network。仮想専用線を用いることで、社外からでも社内のネットワークに接続できる技術)が使える環境を整えることに加え、オンライン会議ツールやチャットツールなどのソフトウェア、パソコンなどのハードウェアを用意する必要があります。導入・運用にはある程度のコストがかかります。
2.セキュリティの懸念
セキュリティへの懸念も生じます。個人情報を扱うときにどうするか、端末をどのように管理するか、パソコンなどの機器の盗難・紛失をどう防ぐかといった問題への対策が求められます。
3.労働時間の管理が難しくなる
ワーケーションでは社員が業務に従事した時間を把握し、管理するのが難しくなります。テレワーク用の勤怠管理ツールを使うなどいくつかの方法がありますが、労働時間管理をどのように行うかは企業側の課題となるでしょう。
さまざまなワーケーションの取り入れ方
ワーケーションは取り入れ方によっていくつか異なるタイプがあります。
たとえば社員が通常と同じように休暇を取って個人で行き先を決めて旅行に行き、その旅行先でWeb会議などに参加するなど何らかの仕事をするときは、会社が仕事として認めるというケース、これは休暇を主体としたワーケーションといえます。帰省を兼ねてワーケーションを実施することもできます。ただ、休暇が主体なので、旅費は社員の自己負担となることが多いでしょう。
それとは違って、会社が行き先を決めて旅費も出し、社員は旅行先で仕事をして、終業後や週末はその地域で休暇を楽しむというケース、仕事を主体としたワーケーションも考えられます。この仕事主体の場合は会社側が出張として扱う、あるいは研修を兼ねる場合もあるでしょう。
ワーケーションの始め方
ワーケーションを導入するにはまず、上述した休暇主体型と仕事主体型のどちらを採用するのか、あるいはどちらも採用するのかを決める必要があります。また、ワーケーションの対象となる従業員の範囲、取得が可能な時期なども決めます。その他、ワーケーションでの禁止行為、ワーケーション中に怪我や病気をした場合の扱い、発生する費用の負担など基本ルールを整備しましょう。それにあわせて、就業規則も変更することになります。
ワーケーション中の労働時間を管理するための仕組みも必須です。メールで就業時間を報告するだけでも管理は可能ですが、正確さと効率性を求めるなら勤怠管理ツールを使う方法がより良いでしょう。また、十分なセキュリティ対策も講じなければなりません。
これらの準備が整ったら一部社員に対して試験導入を行い、ルールや使用するツールについて問題点がないかを確認しましょう。ワーケーションは社員の自主性に頼る部分が多いこともあり、最初から全社的に導入しようとすると混乱が生じる可能性があります。試験導入で課題を見つけて改善し、徐々に導入を進めた方が成功する確率が高くなるでしょう。
休暇中にあえて働くというワーケーションは、休暇に対する意識を変える良いきっかけになるかもしれません。テレワークと共通する部分もあり、これからの新しい働き方の一つとしても注目されています。今後、導入する企業は徐々に増えていく可能性があります。メリットを活かし、デメリットを軽減させるような対策や工夫をしながら、ワーケーションを取り入れてみてはいかがでしょうか。
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