ワークスタイル
知っておきたい! 障がい者を支援するテクノロジー
情報化社会において、現状、障がい者が情報を入手し使いこなすための手段はまだまだ制限が多いといえます。しかしそれに対し、障がい者を支援するテクノロジーが登場してきているのも事実です。障害者差別解消法が施行されて数年が経ち、企業にもこうしたテクノロジーを活用して障がい者の手助けをすることが求められています。今、企業が知っておきたい障がい者を支援するテクノロジーについて解説します。
障害者差別解消法と企業
障害者差別解消法は、障がいを理由とする差別の解消を推進するための具体的な方策を定めた法律です。正式には「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」という名称で、2013年6月に制定され、2016年4月1日に施行されました。
障害者差別解消法の目的は、すべての国民が障がいの有無によって分け隔てられることなく、人格と個性を相互に尊重し合いながら共生する社会を実現すること、とされています。
障がい者にかかわる法律には他に「障害者基本法」があり、同法第四条にも「差別の禁止」についての規定があります。障害者差別解消法は、その障害者基本法第四条に実効性と具体性を持たせるために制定されました。また、2006年には国連総会本会議で「障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)」が採択されました。日本は2007年に同条約に署名したものの、当時、具体的に障がい者の差別禁止を規定する法律が存在せず、そのため国内法整備の一環として障害者差別解消法が作られたという経緯があります。
この障害者差別解消法で企業がとくに留意しなければならないのは、
- 不当な差別的取扱いの禁止
- 合理的配慮の提供
という2点です。
(1)不当な差別的取扱いの禁止とは、例えば、障がい者に対して、正当な理由なく、サービスの提供を拒否したり、制限したり、条件を付けたりする行為を禁止するというものです。
(2)合理的配慮の提供とは、障がい者が日常生活や社会生活で受ける不便さなどの障壁を取り除くため、個別の状況に応じてなされる配慮のことです。例えば、車椅子を使用している人が乗り物に乗るときの手助け、窓口での筆談や読み上げなど、障がいの特性に応じた方法での対応などが該当します。合理的配慮については、障がいのある人などから何らかの配慮を求められた場合、負担になり過ぎない範囲で、こうした障壁を取り除くための配慮をすべきだと定められています。
企業は障害者差別解消法にどのように対応すべきか
障害者差別解消法では、企業などがこの法律に違反した場合、直ちに罰則を課すとは定めていません。ただし、同一の企業によって繰り返し障がい者に対して差別が行われ、自主的な改善が望めないような場合は、企業が行っている事業を担当する大臣が企業に対し報告を求めることができます。この求めに対して企業が虚偽の報告をする、報告を怠るなどした場合は20万円以下の過料が科せられる可能性があります。
また、合理的配慮については、国の行政機関や地方公共団体に対しては義務とされていますが、企業に対しては努力義務となっています。しかし、こちらも取り組みが行われていない場合は、やはり担当大臣から報告が求められ、指導が入るなどの可能性があります。
四肢に障がいがある人を支援するテクノロジー
さて、ここからは障害者差別解消法を遵守し、その目的や意図するところに沿って企業が障がい者と接する際に役立つと思われるテクノロジーについて述べていきます。
四肢に麻痺などの障がいがある人の場合、現代社会ではパソコンやスマートフォンの操作が難しいことが大きなハンデとなります。
これに対しては音声による文字入力が解決策としてよく知られています。音声入力機能はここ数年、スマートスピーカーなどの登場で健常者の間でもポピュラーなものになっています。精度の高さや認識スピードの速さも実用レベルに達しているといえるでしょう。
音声入力以外には、視線の動きによる文字入力の普及が進んでいます。画面上のキーボードやアイコンに視線を送るだけで文字が入力できるため、手指を使うのとほとんど変わらない操作が可能になると期待されています。
また、顔の表情変化で操作ができる電動車椅子も開発されており、将来は手足に頼らない入力方法によってパソコンやスマートフォン操作以外にもさまざまな機械や道具が動かせるようになると考えられています。
視覚障がい者を支援するテクノロジー
視覚障がい者の場合も、音声入力や音声操作がパソコンやスマートフォンの利用をサポートします。また、画面上に打ち込まれた文字の読み上げ機能を利用すればキーボード入力も可能になります。
他には点字を打ち込めるデバイス、印刷できるプリンターも使用されています。
また、最近ではカメラに映った文字を音声で読み上げたり、状況を教えてくれたりするスマートフォンアプリの開発が注目されています。スマートフォンを掲げると、カメラの目の前にどのような人がどのような表情で立っているのかを教えてくれます。スマートフォンが自分の視覚の代わりになって周囲の世界の様子を逐一伝えてくれるなどが可能なテクノロジーが実用化されようとしています。
聴覚障がい者を支援するテクノロジー
聴覚障がい者には、電話や会話の音声をリアルタイムで文字にして表示する技術が利用されています。手軽なものとしては、スマートフォンなどにインストールすることで、会話を瞬時に見える化し、健聴者との意思疎通をスムーズにするコミュニケーションアプリなどが登場しています。
上記のテクノロジーは、障がいのある従業員やお客さまと接する機会のある企業にとって役立つものが多いはずです。障害者差別解消法を遵守するためにも、今後どのような技術が実用化されていくのかも含めて注目しておくと良いでしょう。
あわせて読みたい
関連記事はこちら
リモートワークはデメリットが多い? 必要な対策も解説
リモートワークを試したいと考えている、あるいはそのように考えて試験的に実施したことはあるものの、自社にとってデメリットが多いことがネックとなり、完全な導入には至...
詳細はこちら
テレワークの課題と解決策とは? 企業の成功事例も紹介
新型コロナウイルス感染症の影響もあり、テレワークを導入する企業が増加しました。そして導入が進んだことで、さまざまな課題も生じています。どのような課題と解決法があ...
詳細はこちら
テレワーク導入におけるセキュリティ対策のポイント
企業がテレワークを導入する際には、セキュリティ対策が欠かせません。テレワークで問題となるセキュリティリスクとはどのようなもので、リスクを回避するには何をすれば良...
詳細はこちら
何を実現できたのか? RPA活用事例
オフィス業務における定型的な作業を自動化できるRPAに注目が集まっています。RPAで何ができるのか、RPAの概要と活用するメリット、活用事例についてご紹介してい...
詳細はこちら
RPA導入で成功するための注意点や進め方を詳しく解説
人間が行う事務作業を自動化し、サポートする夢のシステムとして紹介されることも多いRPA。しかし、その導入には慎重な準備と精細な検証作業が必要です。RPA導入を成...
詳細はこちら
休み方改革とは? 働き方改革にとどまらない政府の取り組み
2019年から施行された「働き方改革関連法」は多くの注目を集め、多くの方がご存じでしょう。そのようななか、近年同じように注目を集めている「休み方改革」については...
詳細はこちら
チームビルディングとは? 目的やメリット
仕事を進める上でチームの存在は欠かせません。一人では達成が難しい目標も、チーム一丸となって取り組むことで達成できるようになることもあり、チームとしての能力を上げ...
詳細はこちら
企業がテレワークを導入するメリット・デメリットを解説
在宅勤務など、オフィスに通勤しないスタイルの働き方が普及しつつあります。テレワークというこの新しい勤労形態は、企業と従業員に何をもたらすのでしょうか。企業がテレ...
詳細はこちら
仮想オフィス(バーチャルオフィス)の機能とは? メリット・デメリットも解説
コロナ禍で一気にテレワークが普及しましたが、テレワークにおけるデメリットも見えてくるようになりました。コミュニケーション不足や帰属意識の低下、社員の孤独感などの...
詳細はこちら
ハイブリッドワークのメリット・デメリットや導入のポイントを解説
コロナ禍でテレワークが普及し、新しい働き方として一般的なものとなりました。そんななか、注目を集めている働き方がハイブリッドワークです。ハイブリッドワークはテレワ...
詳細はこちら
テレワーク時の部下からの不満ランキング
テレワークを導入した場合、社員の多くが在宅勤務となります。在宅勤務になった場合、オフィスなどの職場での勤務と比べると、業務を行う上でどのような不満を持つことにな...
詳細はこちら
テレワーク導入に際し会社が導入・支給したものランキング
今では数多くの企業がテレワークを始めていますが、テレワークの導入に際して、企業はどのようなツール、サービスを取り入れているのでしょうか。今回は、会社が導入・支給...
詳細はこちら
【テレワーク導入事例】さまざまな企業の取り組みを紹介
ここ数年、テレワークを導入する企業が増えています。ほとんどの従業員がテレワーク制度を利用し、ワークライフバランスの充実を実現しているだけでなく、企業としての生産...
詳細はこちら
テレワーク導入企業における社員管理、勤怠管理の調査結果
テレワーク導入についてのアンケート結果から、課題や解決策を探る一連のシリーズも今回で3回目。今回は特に社員管理、勤怠管理に焦点を当てて、アンケートの結果を紹介し...
詳細はこちら
テレワーク導入における課題は何? 未導入企業の懸念と実際とは
テレワークが推進される時代にあっても、テレワークの導入に二の足を踏んでいるという企業もまだ多いものです。そこで、「テレワークの導入を妨げている要素」について、ア...
詳細はこちら
「テレワークは不可能だと思う」人が約6割〜理由別の解決方法を探る〜
テレワークという勤務形態が一般的になってきた現在ですが、テレワークを導入できずにいるという企業もまだまだ多いものです。それでは、未導入の企業にはどのような事情が...
詳細はこちら
リモートワークとは? テレワークとの違いや導入方法、メリット・デメリットを解説
リモートワーク、テレワークといった言葉を目にする機会が増えています。いま、企業がリモートワークを導入することにはどんな意味やメリットがあるのでしょうか。導入の手...
詳細はこちら
今こそ考えたい! 製造業のテレワーク【afterコロナ・withコロナ】
製造業とテレワークはあまり相性が良いとはいえず、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、事務系など一部の部門でテレワークを行ったという製造業者でも、その後、定着に至っ...
詳細はこちら
導入準備から賢い進行方法まで解説! Web会議のやり方
世の中に徐々に浸透しつつあるWeb会議ですが、これから導入を考えているという会社も多いはずです。Web会議とはどのようなもので、どのようなメリットがあるのか、導...
詳細はこちら
隠れ残業の実態とは? 原因と企業がとるべき対策
会社には黙って仕事を持ち帰り自宅などで業務を行うことや、業務の延長線上で生じた雑務や事務的作業をプライベートでこなすことを「隠れ残業」といいます。ここでは、隠れ...
詳細はこちら
勤怠管理システムを導入するメリット・デメリット
従業員の正確な労働時間を把握するために欠かせない「勤怠管理システム」は、正社員以外に派遣社員やアルバイトなど、非正規雇用によって不規則に勤務する従業員の業務管理...
詳細はこちら
テレワークの監視は必要? 従業員のさぼりを防ぐ方法
働き方改革の推進や新型コロナウイルスの影響などで、テレワークを導入する企業が増加しています。しかし、テレワークを導入したものの従業員の作業進捗が確認しづらかった...
詳細はこちら
テレワークも進化する? 5G活用の働き方改革
5Gによってこれまで以上に高速かつ大容量通信が可能となることは自明でしょう。そしてその特性がうまく生かされると、働き方もまた変化するだろうといわれています。5G...
詳細はこちら
在宅勤務で集中できない人におすすめの対策
テレワーク・リモートワークの一種である在宅勤務が普及してくるにつれ、在宅勤務ならではの悩みを持つ人も増えてきたようです。なかでも多いのが、在宅勤務だとオフィスで...
詳細はこちら
就業規則はどうする? 企業が在宅勤務を導入する際の注意点
国が提唱する働き方改革の推進や、多様で柔軟な勤務形態を導入することで人材を確保していく必要性、さらに新型コロナウイルスの影響もあって、「在宅勤務」を導入する企業...
詳細はこちら
仕事が奪われる? AI失業は本当に起こるのか
AI(人工知能)がこのまま進歩を続け、企業への導入が進めば、やがて多くの仕事がAIに奪われる……こんな話を耳にしたことのある人は多いのではないでしょうか。AIが...
詳細はこちら
社内問い合わせ対応をチャットボットで!成功・失敗事例を紹介
社員からの社内問い合わせ対応に人的リソースを割かれているという問題に対し、AIチャットボットを導入する企業があります。AIチャットボットははたしてどのような方法...
詳細はこちら
企業のチャットボット活用における導入のポイント
チャットボットの導入によって業務効率化やユーザーとの接点増加を進める企業が増えています。そもそもチャットボットとはどのようなツールで、どのような種類があるのでし...
詳細はこちら
サテライトオフィスとは? 企業の課題とメリット・デメリット
多様な働き方が可能となる社会の実現に向けて国や企業が動き始めている今、注目されているのが「サテライトオフィス」です。なぜサテライトオフィスが必要とされ、企業はど...
詳細はこちら
働き方改革の目的とは? 取り組む企業の課題と解決策
2019年4月から「働き方改革関連法」が順次施行されています。これに伴い、企業はそれぞれの労働の現場で、具体的に「働き方改革」を推進していくこととなりました。し...
詳細はこちら
企業の人手不足解消のカギ! 多様化する雇用制度と勤務形態
人手不足に悩む企業にとって、今、必要なのは働く環境の改善ではないでしょうか。多様な雇用制度や勤務形態を採用することが、戦力となる人材を確保、維持するための有効な...
詳細はこちら
テレワークを支えるICTとは?
時間や場所に縛られることなく、効率的に働くことができるテレワーク。この新しいワークスタイルを支えているのがICTです。ここでは、国や関係団体も支援し推進している...
詳細はこちら
テレワークの種類とそれぞれのメリット・デメリット
時間や場所にとらわれない働き方として普及が進んでいる遠隔勤務形態、テレワーク。国が推進するプロジェクト「働き方改革」の一環として各企業で実施されていますが、総務...
詳細はこちら
テレワークに向いている業務と向いていない業務とは?
時間や場所の制約を受けずに柔軟に働ける勤労形態、つまり遠隔勤務を意味するテレワークは、社員(従業員)にとって働きやすいだけでなく、経営者側にとっても人材の確保、...
詳細はこちら