ワークスタイル
企業がテレワークを導入するメリット・デメリットを解説
在宅勤務など、オフィスに通勤しないスタイルの働き方が普及しつつあります。テレワークというこの新しい勤労形態は、企業と従業員に何をもたらすのでしょうか。企業がテレワークを導入するメリットとデメリットについて解説します。
テレワークとは?
テレワークとは、ICT(情報通信技術)を活用し、時間や場所の制約を受けずに柔軟に働ける勤労形態のことです。「tele」には「遠方の」、「遠距離」という意味があり、これと「work」を組み合わせて、「遠隔勤務」といった意味を持ちます。
在宅勤務はテレワークの一種で、自宅にいながらにしてパソコンとインターネット、電話、FAXなどを使って働く働き方を指します。他に携帯電話やスマートフォンを使って顧客先や移動中のカフェなどで働くモバイルワーク、サテライトオフィスや複数の企業や個人が利用する共同利用オフィスなどで働く施設利用型勤務もあります。
また、企業に雇用された人が利用する雇用型のテレワーク、SOHOなどの自営型のテレワークといった分け方もされています。このようにテレワークといっても、実に多様な勤務形態があります。
テレワークのメリット
国土交通省「令和3年度 テレワーク人口実態調査」によると、テレワーク制度などを設けている企業のテレワーカーの約89%がテレワークの継続意向を示しています。その理由はテレワークのメリットにあると考えられます。以下、具体的にテレワークにはどのようなメリットがあるのか、従業員側、経営者側それぞれで挙げてみましょう。
従業員のメリット:通勤の必要がない(通勤時間の削減)
通勤の必要がなくなる、もしくは少なくなるため、通勤時間を削減できます。特に都市部では、通勤ラッシュによるストレスがなくなることによるメリットも無視することはできません。通勤で疲弊することなく仕事にすぐに取り掛かれます。
従業員のメリット:子育てや介護をしながら仕事ができる
子供がいる場合、在宅勤務なら自宅で子供の面倒を見ながら仕事ができます。保育園に預けられないような場合は特に助かるでしょう。子育てだけでなく介護の必要がある家族がいる場合も、仕事をこなしながら世話をすることが可能です。
従業員のメリット:作業に集中できる
自宅で仕事に必要なスペースとパソコンなどの仕事道具をそろえれば、周囲の様子を気にすることなく作業に集中することができ、自身のスキルを存分に発揮できます。不要不急のミーティングや来客もありません。また、気分転換にカフェなどで仕事をすることもできます。
経営者のメリット:震災・感染症などのリスクへの対策
経営者側からみると、1ヶ所のオフィスのみに業務機能と従業員が集中していないことは、地震などの大規模災害が発生したときのリスク分散になります。災害時に重要業務を中断させない「BCP(事業継続計画)対策」としてもテレワークは有効です。
また、昨今のコロナ禍においても、感染拡大を防ぐ目的でテレワークは有効です。自然災害や感染症のパンデミックなどのオフィスに出社することが難しい状況であっても、業務を継続できる点は経営者として大きなメリットの一つといえるでしょう。
経営者のメリット:離職率の低下
テレワークによる働きやすさの整備は、従業員の離職率低下という成果を生んでいます。とりわけ仕事を続けたくても出産・育児、夫の転勤などによって退職せざるを得ないことが多い女性社員にとって、テレワーク制度は利用価値の高いものとなっています。例えば日本マイクロソフトは、テレワークを含む働き方の多様性推進によって離職率を40%低減させることに成功したと言われています。人材確保のためにもテレワークは必要といえるでしょう。
経営者のメリット:生産性の向上
ワークライフバランスの最適化は生産性の向上をもたらします。これはテレワークによる仕事と家庭の両立、プライベートの充実が仕事に好影響を与えるためです。独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT)が行った「平成27年 情報通信機器を利用した多様な働き方の実態に関する調査」によると、実際にテレワークを行っている従業員が考えるテレワークのメリットとして「仕事の生産性・効率性が向上する」と答えた方が54.4%いるという結果となっています。 また、国土交通省による「テレワークの効果に関する調査」によると、仕事の進め方の計画性が向上するという感想がみられます。
経営者のメリット:企業イメージの向上
働きやすい環境づくりに積極的な姿勢は、企業イメージの好感度アップにつながります。国の方針でもある「働き方改革」ともリンクし、新しい働き方の指針となるテレワークの導入に成功しているという実績が、企業の先進性を示すエビデンスとなります。
経営者のメリット:コスト削減
テレワークであればオフィスの電気代やプリンターを利用する際の紙代・インク代などを削減できます。加えて、従業員の通勤手当なども不要になります。オフィスの維持コストや従業員の通勤手当などのコストは非常に大きなものですので、テレワークでも十分に業務が行えるとして、これらのコストを削減している企業も少なくありません。コストの削減もテレワークを導入する際の大きなメリットの一つです。
経営者のメリット:多様な人材の確保
テレワークによって働き方に柔軟性が生まれることで、多様な人材を確保できるようになります。
従来の働き方では、オフィスに出社して勤務できる人でなければ雇用できませんでした。しかし、遠隔地に住んでいる、もしくは怪我、病気、障害、介護、出産、育児などのために出社が困難であっても働くことを希望している人は多数います。テレワークであれば、出社せずに自宅などから勤務することができるため、これまでは勤務形態が合わないために不採用となっていた人材も雇用することができ、人材不足問題の解消にもつながります。
テレワークのデメリット
一方、テレワークのデメリットはどうでしょうか。導入・運用にあたって以下のような課題があることを把握し、対応する必要があります。
従業員のデメリット:正当な評価をされない可能性
労働状況や勤務態度を、直接見てもらうことができないため、仕事に対する正当な評価が受けられない可能性があります。上司に勤怠管理をされない気楽さがある反面、労働状況や勤務態度に基づいたプラスの評価をされにくいとも言えます。
従業員のデメリット:自己管理しにくい
テレワークによって指示を受ける頻度が少なくなり、与えられた作業のこなし方が自由になると、その分しっかりと自己管理をしなければいけません。あらかじめスケジュールを組んだ上で、そのスケジュールに沿って業務を行う自己管理が、事務所で仕事をする以上に求められるのです。
従業員のデメリット:コミュニケーション不足や孤立
一緒に働くスタッフがそばにいないという状況が、孤立感をもたらすことがあります。メールやチャット、電話はもちろん、Web会議やテレビ会議などのICTの活用、定期的な顔を合わせてのミーティングや交流でこれを補うことになるでしょう。
経営者のデメリット:IT端末のセキュリティ管理が必要
インターネットを多用するため、セキュリティの問題をクリアにする必要があります。また、使用するパソコンのウイルス感染、誤操作を含むリスクも想定して対策すべきです。多くのテレワーカーが使用することになるスマートフォン、タブレットなどのモバイル端末もセキュリティ管理が不可欠です。
経営者のデメリット:労働実態の不可視
経営者側がテレワーカーの労働実態を把握しづらいのもデメリットです。勤務時間をどのように管理するかも大きなポイントです。各種業務ログ取得システム、業務ログ管理ツールなどの活用を考えるべきでしょう。
テレワークのデメリットへの対策
テレワーク導入の際に課題になりやすいものとしては、コミュニケーション不足が挙げられます。テレワークではコミュニケーションをとることが難しいため、ビジネスチャットツールやビデオ会議システムなどのコミュニケーションツールを導入し、円滑なコミュニケーションを実現しましょう。
それでも、メンバーとの一体感や、業務連絡以外の何気ないコミュニケーションは生まれづらいという面もあります。そこまで補ってくれるツールとしては、仮想オフィスがおすすめです。仮想オフィスサービスでは、ネット上でチームを作って一緒に作業しているような空間を作り出せる場合が多く、コロナ禍以降に注目を集めています。
いずれのツールも利用する際にはセキュリティ対策が欠かせず、利便性の向上とあわせてセキュリティの向上もめざす必要があります。
テレワークの展望
テレワークはコロナ禍に急増し、いまでは新しい働き方の一つとして定着しています。一方、一切出社することのない完全テレワークだけでなく、従来のオフィスワークと組み合わせた「ハイブリッドワーク」にも注目が集まっています。
テレワークとオフィスワークにはそれぞれメリットとデメリットが存在しますので、今後はどちらかの働き方しか選べないのではなく、どちらの働き方も自由に選択できるようになるなど、働き方の多様性を実現することが求められるでしょう。
テレワークを導入する際は、そのメリットとデメリットをしっかりと理解しておくことが不可欠です。上記を参考に、テレワークによってどのような利益がもたらされ、どのようにデメリットをカバーしていくかを、自社のケースに当てはめてご検討ください。
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