セキュリティ
シンクライアントとは? 環境の種類やメリット・デメリットも紹介

シンクライアントの導入によってセキュリティを強化し、コスト削減も実現する企業が増えています。シンクライアントとはどのような技術なのでしょうか。実装方式の種類やメリット・デメリットなどを含めてご紹介します。
シンクライアントとは
シンクライアントとは、クライアント端末の機能を最小限の構成にし、アプリケーションの実行やデータの保持をサーバー側で行う仕組みを指します。「シン(Thin)」は薄い、厚みがないという意味です。
シンクライアントにおけるクライアント端末は、基本的にHDDやSSD、光学ドライブなどの記憶媒体を持ちません。またアプリケーションも端末にインストールしません。
記憶媒体を有し、アプリケーションをインストールして動作させるのはサーバー側の役割です。OSやアプリケーションのバージョンアップ、セキュリティパッチの適用、データ保存などもまた、サーバーで集中して行います。
シンクライアントが注目される理由
シンクライアントは最近の技術ではなく、その言葉が使われ始めたのは1990年代半ばからです。当初はディスクレス設計で最小限の機能のみを搭載した端末という意味合いが強く、多機能で高価だったパソコンに対抗する存在でした。ところがその後、端末にデータを保持しないという部分が注目され、再評価されるようになりました。
再評価された大きな理由は、シンクライアントの仕様が情報漏えいの防止に役立つからです。個人情報などの重要な情報も、サーバーとの接続を断てば端末から閲覧できなくなります。逆に、サーバーを安全に運用管理さえしていれば、端末をつなぐだけで作業をいつでも再開できます。
そのためシンクライアントは、企業のセキュリティリスク対策やBCP(事業継続計画)に貢献するシステムとしてアップデートされていきました。現在では多くの企業がシンクライアントを導入、運用し、また在宅勤務などのテレワークにも活用しています。
シンクライアントの環境の種類
シンクライアントには次のような種類があります。
ネットワークブート方式
サーバー上にOSのイメージファイルを置き、これをクライアント端末がネットワーク経由でブート(起動)し、ダウンロードして使用する方法です。アプリケーションも同様のやり方で起動します。CPUやメモリはサーバー側ではなく、端末に備えられています。
この方式は学校やネットカフェなど単一の環境のみ使用する場合に向いています。1つのイメージのみを用意すれば同じ環境を複数の端末上に再現でき、管理が容易になるためです。再起動すればまた初期設定に戻すこともできます。また、CPUやメモリが端末にあるので重い作業をこなせる、一度ブートすれば通常のPCと同じ感覚で操作できるといった点も特長です。
一方、ブート時に時間がかかる、OSイメージを安定してブートできるネットワーク環境やリソースが必要といった側面もあります。
ブレードPC方式
CPU、メモリ、HDDなどを1つの基盤に納めたブレードPCという超小型の専用マシンを使用する方式です。ブレードPCをそれぞれのクライアント端末とペアにして接続し、サーバー側で一元管理します。ブレードPC自体は通常、マシンルームやデータセンターにまとめて設置します。
ブレードPC方式は、端末がそれぞれ1台のPCを専有できるため、CADのような高度なグラフィック処理が要求される作業や、金融取引など信頼性が求められる用途に適しています。
反面、端末の数だけ専用マシンを必要とするためコストが高くなり、管理も複雑になります。
サーバーベース方式
アプリケーションの実行など、すべての処理をサーバー上で行う方式です。端末で行えるのはサーバーから送られてくる画面情報をモニターに映し出すことと、キーボードなどによるアプリケーションの操作情報をサーバーに送り返すことです。端末はサーバーを遠隔操作するためのマシンとしてのみ存在することになります。記憶媒体はもちろん、CPUやメモリもサーバーが備えているものを複数の端末で使用します。
この方式ではサーバーOS上で動作するアプリケーションも各端末で共有します。そのため限られたアプリケーションのみを利用する環境に適しています。一方、アクセスが集中すると処理が重くなるなどの影響が出ることがあります。
仮想PC方式
サーバー上に仮想的に複数のPC(デスクトップ環境)を生成し、その仮想PC上でアプリケーションを動作させて端末から利用する方式です。前述のブレードPC型で物理的なマシンを用意していたものを、仮想マシンに置き換えて使用するイメージです。仮想化のために用いるソフトウェアは仮想化ソフトと呼ばれます。
仮想PC方式では1台のサーバーで複数のOS環境を構築できます。また1台のサーバー上に複数の仮想PCを作るだけではなく、複数の物理サーバーを1台の仮想サーバーとして扱うことも可能です。そのため、アクセスが集中してサーバーの負荷が増加しても、物理サーバー間で異なる仮想マシンを稼働させて負荷を分散できます。
さらに、生成された仮想PCは通常のPCとほとんど変わらない感覚で使用できるなど使い勝手が良く、現在、この方式がシンクライアントの主流となっています。
シンクライアントのメリット・デメリット
シンクライアントを導入するメリットとしてまず挙げられるのが、情報漏えい防止をメインとするセキュリティ対策の強化です。シンクライアントではサーバー側にデータが保存されるため、たとえクライアント端末がマルウェアに感染したとしてもデータに被害が及ぶことはほとんどありません。また、端末の紛失や盗難、災害などによる損壊を受けたとしても、サーバーが無事である限り被害を最小限に食い止められます。
また種類にもよりますが、ユーザーの利用環境を一元管理でき、個々の端末にアプリケーションをインストールしたり記憶媒体を増設したりする必要がなくなるため、管理が容易になり、コスト削減につなげられます。管理者の負担も軽減されるでしょう。
一方で、サーバーの負担は増加します。どの方式を選ぶにせよ、ある程度、高スペックのサーバー、多大なリソースが必要とされます。またネットワーク環境が安定していることも前提条件です。これらはデメリットとまではいえないものの、もしもサーバーのスペックが不足し、ネットワーク環境も貧弱だった場合には、シンクライアント自体が非常に使いにくいものになってしまうでしょう。
シンクライアントを有効に活用するには、実装方式による特徴の違いやメリット・デメリットを理解しておく必要があります。導入においては、自社の業務内容とのマッチングを十分に考慮したうえで検討を進めましょう。