テクノロジー
AIで生成したものの著作権はどうなる? 注意したいポイント

AIを活用する場合、他者の著作権を侵害してしまうリスクに注意が必要です。AIを用いて文章や画像などを生成するだけでなく、AIの学習のために既存の著作物のデータを利用する際も、著作権侵害の可能性があります。
この記事では、AI生成物の著作権に関する法律の概要や、AIを安全に活用するために注意すべきポイントについて解説します。
生成系AIは著作権違反になる?
テキストで入力した条件に基づいて文章や画像などを出力する生成系AIは、利用の仕方によっては著作権侵害とみなされる恐それがあります。
著作権法を管轄する文化庁では、AI技術の進歩に応じて、生成系AIやAI生成物をどのように扱うかの議論が重ねられてきました。令和5年6月19日には「AIと著作権」と題したセミナーが開催され、現行の法律におけるAIの扱いが公表されています。
AIと著作権の関係について、政府が発表した資料で説明されている内容は次の通りです。
文化庁・内閣府が公表した「AIと著作権の関係等について」
基本的な考え方として、AIと著作権の関係は2つの段階に分けて考える必要があるということが示されています。
1つ目は、AIの開発・学習を行う段階です。一般的に、AIの開発には学習元となるデータセットが用いられます。著作物を学習用データとしてAI開発に利用することは、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用行為であるとみなされます。この場合、原則として著作権者の許諾なく著作物の利用が可能です。ただし、必要と認められる限度を超える場合や、著作権者の利益を不当に害する場合は、AI開発が目的であっても著作物の利用は認められません。
2つ目は、生成・利用段階です。AIを利用して文章や画像などを生成したり、AI生成物の公表や複製物の販売を行ったりする場合は、通常の著作権侵害と同様の判断基準が適用されます。著作権法では私的使用のための複製は認められているため、個人的に利用するためにAIで文章や画像などを生成することは可能です。一方、著作権侵害の要件を満たす形でAIによる画像生成やAI生成物の利用が行われた場合は、著作権者は損害賠償請求や差止請求ができます。
これらのほか、文化庁・内閣府が公表した資料では、著作権法の概要や今後必要な対応などが記載されています。
AI生成物の著作権に関する法律
AI生成物の法的な扱いには、平成30年の著作権法改正によって新たに定められた著作権法第30条の4という規定が関係しています。著作権法第30条の4は、特定の条件を満たす場合について、著作権者の許諾なく著作物を利用することを認める規定です。具体的には、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない場合に、AI開発などへの著作物の利用が可能となります。
思想又は感情の享受とは、著作物の視聴を通じて知的欲求や精神的欲求を満たす行為のことです。例えば、写真や絵画を鑑賞したり、小説を読んだりすることが思想又は感情の享受とみなされます。
AI学習に写真などの画像データを利用する行為は、あくまでも学習モデルの生成が目的であり、思想又は感情の享受とはみなされません。そのため、著作権法第30条の4に基づき、原則的には著作権者の許諾なく著作物を利用できます。ただし、学習元の著作物と本質的に似たような特徴を持つAI生成物を作る場合は、元の著作物を享受することも目的に含まれていると考えられるため、著作権者の許諾が必要です。
AI生成物の著作権で注意したいポイント
AI生成物が著作権侵害にあたるかどうかを判断するには、著作権について正しく理解しておく必要があります。特に注意しておくべきポイントは次のとおりです。
そもそも著作権とは
著作権とは、思想又は感情を創作的に表現した著作物を保護するために、著作者に対して認められる権利です。著作物には文芸や学術、美術、音楽などに属する創作物が含まれます。一方、単なるデータや作風、画風などのアイデアは著作物としては認められません。著作権は創作が行われた時点で発生する権利のため、届け出などの手続きは不要です。
著作権侵害の要件「類似性」「依拠性」とは
既存の著作物と似ているものが著作権侵害にあたるかどうかは、類似性や依拠性が認められるかによって判断されます。
類似性とは、著作物が持つ独自の表現が似ていることを指す用語です。既存の著作物ならではの本質的特徴を後発の作品で直接感得できる場合、類似性があるとみなされます。単に作風が似ているだけなど、本質的な特徴ではない部分が似ている場合、類似性は認められません。
依拠性とは、既存の著作物に接した上で、真似や複製をしたことを指す用語です。既存の著作物の存在を知らず、偶然に一致してしまった場合には依拠性がないと判断されます。
AIによる生成物かどうかにかかわらず、既存の作品と類似性・依拠性が認められたものは、著作権を侵害しているとみなされます。
AIの学習に著作物を利用する場合や、AIで生成した画像などを活用する場合、著作権を侵害する危険性があります。既存の著作物との類似性・依拠性が認められるAI生成物を利用してしまうと著作権侵害にあたるため、チェック体制を整えるなどの対策が必要です。AIと著作権の関係について理解した上で、生成系AIを正しく活用しましょう。
参考:内閣府「AIと著作権の関係等について」