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テクノロジー

政府が推進する「AI Quest(課題解決型AI人材育成)」について解説

経済産業省が進める人材育成「AI Quest」をご存知でしょうか。わが国におけるAI人材の不足を解決するための試みで、年間2,000人のエキスパートレベルの人材を育成するという目標が掲げられています。AI Questの概要について説明します。

  1. 経産省が推進する「AI Quest(課題解決型AI人材育成)」
  2. AI Questが誕生した背景
  3. AI Questのモデル、フランスのプログラミング大学「42」とは
  4. AI Questの実施内容

経産省が推進する「AI Quest(課題解決型AI人材育成)」

AI Questは経済産業省が推進するAI人材育成のための事業です。AI人材不足の解決を目的とし、2019年に発表された「AI戦略2019」に基づいて策定されました。

Quest(クエスト)とは探求や探索を意味する言葉です。問題解決方法を探求するという意味を込め、またゲームで使用される構造をゲーム以外の物事に応用する「ゲーミフィケーション」の要素を取り入れて名付けられたそうです。

AI Questは「ケーススタディを中心とした実践的な学びの場」であると位置づけられています。従来の人材育成の手法とは違って、企業の実際の課題に基づくケーススタディが提示され、参加者同士が互いにアイデアを出し合い、試し、学び合うのが特徴です。そのことを通じてAI活用による課題解決方法を学ぶと同時に、実際のプロジェクトに関わることで得られる「知恵」を身につけていきます。

2019年度には、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)がAI Questの実証実験を行いました。同年10月から翌年2月中旬までの期間、学生や社会人合わせて約200名の受講者を受け入れて、教育手法の全体設計から始業の準備、効果検証などが行われました。

AI Questが誕生した背景

AI QuestはAI人材の不足を解決するという目的で誕生しました。ここ数年、AI技術は加速度的な発展を続けており、企業におけるAI活用ニーズも急速に高まっています。一方、日本ではAI関連技術者の数はもとより、AIに関する基礎的リテラシーを習得している学生の数もまだまだ足りていません。

政府が提言する「AI戦略2019」は、AI人材を育てるための「教育改革」を第一の戦略目標に設定し、次に産業闘争力を強化するための「社会実装」につなげていくことを次の目標としています。さらに具体目標として、2025年までにデータサイエンス・AIを理解し、各専門分野で応用できる人材を年間25万人育てること、データサイエンス・AIを駆使してイノベーションを創出し、世界で活躍できるレベルの人材を2,000人発掘・育成することなどを掲げています。

AI Questはそれを踏まえた新たな形での産業政策です。AI Questの大目標は人材不足の解消、そして人材育成を通したAI実装を実現することの2つです。AI人材を育て、それをAIの実装・普及につなげることが重要な課題であり、目指すべきゴールだと示されています。

AI Questのモデル、フランスのプログラミング大学「42」とは

AI Questのモデルとなっているのは、フランスの「42」という学費無料のエンジニア養成学校です。ザヴィエ・ニエルが個人資産を投じて設立した42は18歳から30歳までであれば学位要件は問われず、誰でも学生として受け入れられ、ネットから申し込めます。実際に教育を受けている人たちには高卒やプログラミング未経験者が多く含まれています。ただし、入学試験は4週間にわたり行われ、倍率は数十倍ともいわれており、実際に入学することは容易ではないようです。

42の20万平方フィートの敷地に建つ校舎内には数千台のMacintoshが設置され、毎日24時間稼働しています。この大学には教室や教師は存在せず、学習はプロジェクトやゲーム形式のPBL(問題解決学習法)によって進められます。ここで学生たちは3年から5年の期間を過ごし、エンジニアとして巣立っていきます。

AI Questの実施内容

AI Questの育成プログラムは、社会における身近な課題を題材とし、その解決方法としてAI実装を学ぶものになっています。一部の課題は企業から提供された課題とデータセットで構築されています。

受講者は学生や社会人の中から抽選で選ばれ、個人もしくはチームを組んで2〜3本の課題に取り組みます。これは42で行われているのに似た課題解決型の学習方式です。その際はボストン・コンサルティング・グループのコンサルタントがサポートし、技術面でも別のコーチがフォローします。

課題の取り組みはビジネス課題(課題設定と解決策の特定)からAI実装課題(要件定義と実装)へと進みます。ビジネス課題が提示されると実際の会社員になったものと想定して事例を捉え、ビジネス上の課題や対応策を考えます。そしてAI実装課題の段階では考えた打ち手を踏まえて実際の企業で使用されているデータやサンプルデータを用いてAIを実装します。そして結果について最終プレゼンテーションを行います。

こうしたプログラムの実施により、参加者は考察、データ分析、チーム内外とのディスカッションなどを通してアウトプットを仕上げる経験を積み、またプレゼンや議論を通してAI活用によるビジネス課題解決の経験を積むことができます。さらに受講者同士の交流やつながりを作ることも大きな財産となるでしょう。

AI Questに代表されるように、国もAI人材不足の対策に取り組んでいます。これからどのような展開を見せていくのか注目していきましょう。

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