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全数検査のメリット・デメリットと導入のポイント

製造工程で製品の不良を取り除くには、全数検査を実施するのが理想です。近年ではIoTやAI(人工知能)技術を活用した新しい全数検査も可能になっています。しかし、全数検査にはメリットがある一方、デメリットもあります。全数検査のメリット・デメリット、導入のポイント、今後の全数検査についての展望などについて解説します。
全数検査とは
検査とは製品(または部品)の品質特性を測定し、規定に適合しているかどうかを判定する作業を指します。そして全数検査とは、製造工程の中で対象となる製品を一つ残らず検査する検査法です。
全数検査以外の検査方法としては抜き取り検査があります。抜き取り検査の場合は、対象となる製品のロットの中から一部をサンプルとして抜き取って試験し、その結果によってロット全体の合否を決めます。また、製造工程の品質情報や技術情報に基づいて、サンプルの検査も行わない無検査(無試験検査)という方式もあります。
全数検査のメリット・デメリット
全数検査のメリットは、すべての製品を検査して不良品・異常品を取り除くことにより、当該ロットの品質を完全に保証できることにあります。判定そのものをミスしない限り、市場における不良品や異常品が発生する確率を限りなくゼロに近づけられます。
一方、デメリットは検査のためにコストと時間がかかることです。とくにボルトやナットのような安価で数量の多い製品で全数検査を行うのは費用対効果が見合わず、現実的ではありません。また、製品を長時間稼働させて行うような耐久検査、外力を与えて強度を調べるような破壊検査、引張試験などが必要な場合も、製品・部品の価値が失われるため全数検査はできません。
全数検査導入のポイント
全数検査を導入する際は、そのメリットを十分に得られ、デメリットを排除できるのかどうか対策を検討します。具体的に、全数検査が必要または適しているのは次のような場合です。
不良が重大な危害をもたらす場合
不良が一つでも発生すると人命に危険が及ぶような製品では品質管理を徹底する必要があり、必ず全数検査を行わなければなりません。例えば自動車のブレーキやエアバッグ、医療機器などは、不良や不具合があると消費者に重大な危害をもたらす可能性があると考えられます。
全数検査による費用対効果が認められる場合
高額な製品であれば、コストと時間をかけて全数検査をしたとしても、十分な費用対効果を得られる可能性があります。また、出荷した製品に不良が発覚した場合に、その対応にかかる費用が全数検査のコストを大きく上回るという場合も、全数検査を実施するほうが適しています。
簡単に全数検査ができる場合
全数検査にそれほどコストや時間、手間がかからず、簡単にできるのであれば、全数検査をしたほうが良いということになります。
例えば食品の場合は、金属類やガラス片などの異物の混入を防ぐためのX線異物検出機や金属探知機を使った全数検査が行われます。これは異物混入が消費者に重大な危害をもたらす可能性があることや、万一、異物混入が生じると製品の全回収など多大なコストがかかるということもありますが、同時に機械を使って比較的簡単にチェックができることも理由として挙げられます。
センサーや画像処理システムの活用で全数検査が容易に
近年、IoTとAI技術を組み合わせた検査装置、検査システムが登場し、従来とは違った形の全数検査が可能になってきています。
例えば工場内の製造用機械に接続したセンサーから製品や部品の状態に関するデータを収集し、機械学習によって品質データとの相関関係を把握すれば、品質を見分けるためのアルゴリズムを構築できます。このことにより、品質の良否を判定するシステムとして運用することが可能です。
他にも、カメラ(イメージセンサー)で収集した製品や部品の画像データをAI技術を使った画像処理システムで精査して、不良品を見つけて除外するといったシステムを作ることもできます。
IoTとAI技術を組み合わせた検査ソリューションの強みは、これまでは人の目と勘に頼って行っていた検査工程を高い精度で自動化できることです。検査スピードもアップします。
これまで全数検査のデメリットはコストがかかることとされてきましたが、IoTとAI技術を組み合わせた検査ソリューションの多くは安価なコストで導入できる可能性があり、少なくとも人手に頼る全数検査よりもコストを抑えられるでしょう。
センサー、画像処理システム、IoT、AI技術などの進化により、容易に全数検査を実施できる環境が整いつつあります。全数検査のメリット・デメリットに対する考え方も変えていく必要があるでしょう。
全数検査はメリット・デメリットを理解した上で導入を検討すべきです。しかし、IoTとAI技術を活用した全数検査を実施するのであれば、コストについてのデメリットは解消される可能性があります。また、全数検査をIoT化できれば、それをきっかけに各設備の異常検知や点検のIoT化、ひいてはスマート工場化へと発展させる道筋も見えてくるでしょう。これらを考慮した上で、全数検査の導入を検討してみてください。