テクノロジー
量子コンピュータとは? メリット・デメリットを解説
量子コンピュータの開発が加速しています。実用化されれば、交通渋滞の解消、医薬品の開発、ビッグデータの解析、AIの開発などに大きな進展をもたらすと言われています。量子コンピュータとはどのようなコンピュータなのか、その登場が与える社会へのインパクトや実用化により生まれるメリット・デメリットについて解説します。
量子コンピュータのメリットとは
量子コンピュータは量子ビットを使って計算することで桁違いの処理能力を発揮します。その速度は従来のコンピュータの実に約1億倍と言われています。
従来のコンピュータにおいて、処理速度の高速化はやがて限界がくると言われていました。その限界を超え、従来のコンピュータでは成し得ないレベルの計算、例えば数えきれないほどのパターン(新薬開発のために行われる膨大な数の素材の組み合わせ、複数のチェックポイントを経由する交通ルートなど)から、最適なパターンを一つ見つけ出すといった計算を瞬時に行えるようにするのが量子コンピュータです。
これによりビッグデータの解析技術やAIの能力向上が見込め、新薬の開発スピードを飛躍的に上げたり、交通システムを改善したりといった活用へとつなげられると考えられます。
また量子コンピュータは電力消費が極めて小さいというメリットがあります。量子コンピュータの「D-Wave」は、冷却装置によりごく低温で動作し、消費電力は冷却装置も含めて25kW 以下だとされています。
従来のコンピュータと量子コンピュータの違い
従来のコンピュータ(古典コンピュータ)は情報を「0か1」という2通りの状態で表す「ビット」を最小単位として扱っています。これに対し、量子コンピュータは、量子力学の基本性質である「0と1の両方を重ね合わせた状態」をとる「量子ビット」を使って計算します。「0と1の両方を重ね合わせた状態」とは、「0であり、かつ1である」という状態のことを言います。この2つまたはそれ以上の状態を同時に表すことができる性質を、「重ね合わせ」と呼びます。
現在、量子コンピュータには「量子ゲート方式」と呼ばれるタイプと、「量子アニーリング方式」と呼ばれるタイプの2種類が存在します。
量子ゲート方式は1990年代頃から研究開発が進み、最近ではIBMやGoogleも実用化に向けた研究を行っています。量子ビットや重ね合わせを利用するのはこの方式の量子コンピュータです。
1994年にアメリカの論理計算科学者ピーター・ショアは、因数分解用のアルゴリズム「ショアのアルゴリズム」を発表しました。このことが大きな反響を呼んだのは、従来のコンピュータにとって因数分解のような計算は、計算可能ではあるけれどとてつもなく時間がかかるものだったためです。量子ゲート方式の量子コンピュータは「0と1」だけではない理論と方法を用いることで、因数分解を実用的な速さで行う新しいコンピュータとしての可能性を示しました。
一方の量子アニーリング方式は、2011年にカナダのベンチャー企業、D-Waveシステムズが量子コンピュータ「D-Wave」の開発に成功したと発表して有名になりました。その原理は、1998年に東京工業大学の西森秀稔教授と門脇正史氏が提唱した理論が基になっています。量子アニーリング方式は量子ゲート方式よりもさらに用途が限られ、複数の選択肢から組み合わせた結果を評価し、その中から最適な組み合わせを決める「組み合わせ最適化問題」を解くことに特化した量子コンピュータだとも言われています。
2015年、NASA(航空宇宙局)のエイムズ研究センターで行われたNASA、USRA(大学宇宙研究連合)、Googleによる記者会見で、性能テストを行った結果、D-Waveの量子コンピュータは従来のコンピュータに比べて1億倍高速であると発表されました。
量子コンピュータの実用化がもたらす変化とは
量子ゲート方式によって因数分解が現実的な処理速度で行えるようになると、現在、金融分野を中心に広く採用されている暗号が容易に解読可能になると言われています。一部の専門家は、10年以内に量子コンピュータがそれらの暗号を破るのではないかと予測しています。具体的には「RSA」や「楕円曲線暗号」のような公開鍵暗号、「ディフィー・ヘルマン」などの鍵共有による方式が役に立たなくなるとされています。
そのため、量子コンピュータの実用化に対抗して、これまでの暗号やセキュリティ対策に代わる新暗号方式や新セキュリティ対策の開発が急がれています。このことは量子コンピュータがもたらすデメリットの一つとも言えるでしょう。
量子コンピュータの可能性
しかし一方で、社会に新しい希望をもたらすような可能性も開けています。
量子アニーリング方式が解く組み合わせ最適化問題は、例えばセールスマンの訪問先が複数あるとき、最も短い時間ですべてを巡回するルートを見つけるために役立つとされています。この巡回セールスマン問題が簡単に解けるようになれば、次は自動運転における交通渋滞緩和や、分子の構造分析を通じて進められる新薬の開発にも応用できると期待されています。
また量子コンピュータによって、ビッグデータの解析が今よりもずっと容易になるという観測もあります。ビッグデータ以外にも膨大なデータを掛け合わせたシミュレーションが可能になることから、まったく新しい製品の研究開発が進んで技術革新が起こったり、正確な未来予測ができるようになったりといったことも実現するかもしれません。
そしてもう一つ、大きな期待をされているのが、AIと量子コンピュータの組み合わせによる技術革新です。とくに機械学習の分野には組み合わせ最適化問題を含む要素が多くあり、量子コンピュータによってAIの開発が飛躍的な発展を遂げる可能性が指摘されています。
量子コンピュータの実用化にはまだまだ多くの課題も残されています。しかし、量子コンピュータが切り拓こうとしている未来への道筋はおぼろげながら見えており、その開発は急ピッチで進んでいくと考えられます。量子コンピュータが身近なものになれば産業と社会に変革が起きるでしょう。それによって私たちの生活もまた大きく変化するに違いありません。
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