経営戦略
DX戦略とは? 取り組むメリットや進め方のポイントなど

製品・サービス、ビジネスモデル、業務や企業文化の変革を実現するために必要とされているのがDX戦略です。企業がDX戦略に取り組むメリットや進め方のポイントについて解説します。
DXとは
DXとはデジタルトランスフォーメーションの略で、デジタルによる変革を表す言葉です。スウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が2004年に発表した論文で、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」として提唱した概念が初出といわれています。
DX戦略とは
では、DX戦略とは何でしょうか。
経済産業省が2018年12月に発表した『デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)』では、DXについて「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義しています。このことを実現するための戦略が「DX戦略」です。
経済産業省が2018年9月に発表した『DXレポート 〜ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開〜』では、今後DX戦略の推進が遅れることで2025年以降、最大12兆円の経済損失が生じる可能性があるという予測がなされています。
企業がDX戦略に取り組むメリット
企業はDX戦略に取り組むことによって、次のようなメリットを得られます。
生産性の向上
DX戦略への取り組みは既存業務の効率化を進め、生産性の向上に寄与します。各種ITシステムやツールの導入、RPAの活用、テレワークの推進などはいずれも少ない人員で利益を上げられる仕組みを整えるのに役立ちます。少子高齢化が加速する中、生産性向上の実現は大きな課題となります。
顧客体験の改善
顧客が製品やサービスについて知り、調査・検討を経て購入して使用し、サポートを受けるなどのプロセスで感じる心理的価値を顧客体験(CX:Customer Experience)と呼びます。顧客体験は他社との差別化を図る重要なポイントになるといわれています。AIを活用した顧客情報の分析や管理、IoTによる情報収集、チャットボットを駆使したコミュニケーションなどにより、顧客と企業とのあらゆる接点(タッチポイント)を通じた両者の関係性は、より細やかでカスタマイズされたものになります。
既存システムに起因するリスクからの脱却
複雑化・老朽化・ブラックボックス化したレガシーシステムに関するリスクにどう対応するのかも大きな課題です。放置すれば維持コストばかりが高くつき、貴重なIT人材も保守運用のために費やすことになります。
しかもレガシーシステムのアーキテクチャや利用技術はDXで求められるような新技術との親和性が低く、そのままでは将来活用の幅が広がることもほぼ期待できません。逆に属人化やサイロ化による業務効率の低下が進むとも考えられます。こうしたリスクからの脱却を図るためにも、レガシーシステムのモダナイゼーション(老朽化した既存システムなどを最新のものに差し替えたり、刷新したりすること)を含むDXの推進は重要だといえるでしょう。
働き方改革の推進
顧客の消費行動やニーズだけではなく、社員の働き方も多様化しています。DXの推進によってテレワークをはじめとするさまざまな働き方が可能になれば、離職率の上昇を抑え、人材確保にもつなげることができるでしょう。DX戦略への取り組みは働き方改革とも連動しています。
DX戦略の立て方・進め方のポイント
では、DX戦略はどのように立案し、推進していけば良いのでしょうか。DX戦略策定の際のポイントを紹介します。
ビジョンの提示とDX戦略チームの立ち上げ
DX推進は経営戦略の一環としてトップダウン方式で進めるのが一般的です。企業が一丸となってDXを進めるためには、まず経営陣がDXによって何をいつまでにどのように変革していくのかというビジョンを提示することが必要です。その上で、DXプロジェクトを統括するDX戦略チーム(DX推進部署)を立ち上げましょう。DX戦略チームはDX推進のためのプランニングや進捗管理を担います。
目的の明確化
DX戦略チームは、ロードマップの作成にあたって自社におけるDX推進の目的を明確にします。通常は生産性向上、新しいビジネスモデルの創造、テレワーク推進などのミッション定義を複数行うことになるでしょう。
また、例えば営業部門であれば上でも挙げたデータ活用による「顧客体験(CX)向上」をゴールに設定するなど、部門ごとの具体的な目的と、ミッション達成に必要なシステムなどの要件、ロードマップなどを決めていきます。
現状の把握
会社全体あるいは現場の現状について調査し、課題を抽出する作業も欠かせません。DX推進の成功には現場の意見を吸い上げるボトムアップ型アプローチも重要となるため、現場社員への綿密な調査やヒアリングも行います。また、レガシーシステムをモダナイゼーションする場合、その機能やデータをどのようにして新しいシステムに引き継ぐのかといったことも問題になってきます。
人材確保
DX推進を成功させるための重要なポイントとなるのが、データやデジタル技術に関するスキルと専門性を有する人材の確保です。社内の人材を育成するか、新たに採用するか、いずれにしろDX戦略を牽引するリーダーや現場に浸透させるスタッフが必要です。
スモールスタートという選択肢も
DXプロジェクトは長期的なスパンによる大規模なものになることが多く、多大な投資コストが必要になります。しかし、いきなり大規模プロジェクトをスタートさせるのが難しい場合は、限られた業務範囲でDXを進めるスモールスタートを選ぶ方法もあります。DXとの親和性が高く、定型業務が多い部門などで試験的に始めるというやり方も検討してみましょう。
日本企業の多くは企業変革が苦手といわれ、そのことがDX推進の大きな障壁になっているとの見方もあります。しかし現状の課題を抽出し、その解決策としてDXを戦略的に捉えて計画を立てることでDXは成功に近づきます。
なお、DXについての概要については「デジタルトランスフォーメーションとは? 概要や企業の課題について解説」、DX人材育成については「DX人材育成のポイントとは? 社内で育てて人材不足を解決」という記事も、あわせてご覧ください。