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経営戦略

青果流通業界でも進展しつつあるOA化、IT化、DX

現在はITが発達した時代ではありますが、やはり昔ながらの人手による作業、業務、判断などが必要な分野もあります。そのひとつが生鮮食料品の流通業界です。一般的にも、またITやウェブ、コンサルタントなどに携わっている方々にも馴染みはありませんが、いうまでもなく私たちが生活する上で欠かせない分野です。
特徴は、社会的に重要な役割を担ってはいるものの、中小企業で経営が良好とはいえない事業者も多く、さらに労務環境も厳しく、人材不足に悩んでいること。その現状と、ITやAIなどコンピューター関連技術が改善に寄与できそうなことなどについて、私の専門である青果物の卸売市場流通を例に解説します。(第2回)

執筆者
株式会社 農経新聞社 代表取締役社長 宮澤 信一

  1. さすがに手作業では非効率。多くの中小企業でもOA化
  2. 受発注や出荷情報の集約に、専用ツールも登場。それに伴い、電話・FAX・紙(印刷)は縮小傾向に
  3. 販売管理システムでリアルタイムでの売り上げ・利益を把握
  4. DX、AI化はどのように実現するか?

さすがに手作業では非効率。多くの中小企業でもOA化

前回のコラム(生鮮食品流通業界の実態と知られざる現場の真実)で触れたように、元来、人手や経験に頼る部分が多く、効率化が進んでいない青果流通業界。ただ、それでも売り上げや利益の集計を、完全に手作業で行う事業者は、ほとんどいなくなっています。受発注業務が完全にはシステム化されておらず、FAXで受信した注文や卸売市場における小売店への販売伝票などを手作業で入力する部分があるとはいえ、産地からの出荷情報や仕入れ・販売データは、通常の流通業者なら最終的にはシステムで管理しています。

当然、そのデータを基に各種の利益も把握。特に生鮮食料品は、「トマト」のように商品名でひとくくりにできず、品目・品種・産地などを加味したSKU(在庫管理における最小単位)で管理するため、アイテム数が非常に多くなります。 さらに、同じ商品でも市況によって仕入れ単価が日々変動するという特徴もあります。また、誰にどう(小分け、パックなど)、いくらで売るかも、毎週、あるいは毎日バラバラ。それを本当の意味で細かく、正確に管理して利益を把握するにはExcelなどではなく、やはり販売管理システムの機能が必要です。

以前は、「月末に集計してからでないと、利益が把握できなかった」「商品ごと、営業員ごと、あるいは取引先ごとの利益は分からなかった」という時代もありました。しかし現在のシステムでは、データがそろっていれば(入力さえできていれば)、それらは簡単に確認できます。

受発注や出荷情報の集約に、専用ツールも登場。それに伴い、電話・FAX・紙(印刷)は縮小傾向に

OA化、IT化が進んでいるのは、必ずしも大口の流通ばかりではありません。小規模の飲食店(料理店)との受発注、あるいは卸売市場に農協を通さずに出荷する農家などとの間でも、スマートフォンでも使える各種の「ツール」的なシステムが導入されています。 まず飲食店などとの間では、これまで多かったのが、毎日電話をかけて翌日の注文を聞き取る、あるいは翌日納入可能な商品・価格・発注単位などが記載された発注用紙をFAXで送って返送してもらうというもの。電話での受注では聞き間違いが発生することがあり、FAXでも「届いていない」場合は電話で催促し、結局はその電話で受注することも。いずれも入力作業が発生するので、その段階での打ち間違いも起こっていました。

しかし、現在ではスマートフォンのアプリが普及。毎日、レギュラー的に発注するアイテムが最優先で表示されるほか、納入側から翌日の「おすすめ商品」、あるいは休業日、注文締め切り時間を送信するなど、一方通行ではない使い方ができます。また、顧客の注文はデータで残るので、「言った、言わない」を起因としたミス、その結果としての臨時配達を防止。受注データは自動で集計され、顧客ごとのピッキング表の出力や、売り上げデータとしても活用できます。

一方、個選農家の出荷情報の収集については、これまでは「明日どのくらい出荷してくれるか」を、営業員が夜遅くまで電話で確認しなければなりませんでした。「どのくらい商品が出荷されるか分からない」のでは、事前の売り込みができず、へたをすれば「当日のたたき売り」になってしまいます。また、見込みで売り込んでしまうと、当日に商品が出荷されず足りなかった場合、他の業者から買い集めて利益度外視で納品、という事態にもなり得ます。

しかし出荷情報を事前送信するツールを使えば、夜遅くまで電話をかけ、場合によっては農家に嫌がられたりすることも、数量見込みが外れて利益を失うことも減ります。何よりも、しっかりした情報を基に有利に販売することで、農家自身の利益にもなります。

このように便利なツールですが、導入の妨げ要因もあります。それは顧客ではなく、「自社の営業員」。「そんなもの、忙しい飲食店や高齢農家は使ってくれない」と、頭から反対する人がいます。ただしそれは、思い込みにすぎません。高齢農家も、営業を終えたシェフも、「便利だ」と喜んで使ってくれています。要は、「自分のやり方を変えたくない」「人から言われて動くのが嫌」だということにすぎません。

販売管理システムでリアルタイムでの売り上げ・利益を把握

前出の販売管理システムに話を戻します。今から思えば、以前は高機能とは言いにくかったシステムですが、現在ではかなり機能が向上しています。

毎日の営業が終わった時点での全社的な売り上げや利益はもちろん、「この会社から仕入れたこの商品(品目・品種・等階級別)を、どの営業員が、どの顧客に販売した取引の売り上げと利益」など、細かいところまで把握できます。請求データと入金データが合っているかの「付け合わせ」なども、システムで実現可能です。

さらに、毎日時間を決めて集計すれば、同様の内容がリアルタイムでも把握できます。その機能を活かし、営業の途中でチーム単位でのミーティングを行い、「今日はまだ目標が達成できていない。達成するためには、どの顧客に、どのように売り込もう」などの対策も可能となるでしょう。要は、1日の途中、あるいは販売期間の途中での、軌道修正、指示・指導が可能となっています。

また、多くのシステムでは、利益はあくまで「見に行けば、見れる」という仕様になっています。逆にいえば、見に行かなければ把握できません。それに対して、個々の取引データを入力すると、そのデータの利益額と利益率が「自動的に別ウィンドウで表示される」システムも登場しました。つまり、「損したと予想できるので、見たくない、あえて見に行かない」取引データも、強制的に表示されるものです。本当は、そのような取引ほど、きちんと把握しなくてはいけないのですが。

さて、これらは、「正確な仕入れ・売り上げデータが取り込めていれば」の話。卸売市場などで、まれに水面下で行われる「顧客との貸し借り」を優先して虚偽の数値が入力されれば、意味を成しません。それを防ぐためには、チームや会社全体でデータを閲覧可能にしておくこと、異常値があれば上司が必ず確認することが必要です。

DX、AI化はどのように実現するか?

ただ、青果流通業界では、まだ全体的には「出荷情報」「発注情報」などをオンラインで、一気通貫で活用できる環境にはなっていません。各チェーンで独自に定めている商品コードへの変換や、あるいは変換やデータ取り込みができないために、いったん出力(印刷)しての打ち直しが必要な場面も、まだまだあります。

それでも徐々に、青果流通業界でも効率化や新たな発想の下でのビジネス展開に向けての取り組みが進みつつあるといえるでしょう。今回述べてきたのは初段階のOA化、そして次の段階のIT化ですが、これらは「業務の効率化」が目的です。それに対してDXは「ビジネスモデルの変革」ですが、青果流通業界など生鮮食料品の分野において、ビジネスモデルの変革とはどのようなものでしょうか? そこにAIをどう活用できるのでしょうか?
次回以降のコラムで紹介していきます。

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