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経営戦略

青果業界における物流問題への対応

現在はITが発達した時代ではありますが、やはり昔ながらの人手による作業、業務、判断などが必要な分野もあります。そのひとつが生鮮食料品の流通業界です。一般的にも、またITやウェブ、コンサルタントなどに携わっている方々にも馴染みはありませんが、いうまでもなく私たちが生活する上で欠かせない分野です。
特徴は、社会的に重要な役割を担ってはいるものの、中小企業で経営が良好とはいえない事業者も多く、さらに労務環境も厳しく、人材不足に悩んでいること。その現状と、ITやAIなどコンピューター関連技術が改善に寄与できそうなことなどについて、私の専門である青果物の卸売市場流通を例に解説します。(第3回)

執筆者
株式会社 農経新聞社 代表取締役社長 宮澤 信一

  1. ドライバーの働き方改革
  2. 現実的な影響とその対策
  3. ますます増える物流費をしっかり把握して利益管理
  4. 働き方改革にAIを活用

ドライバーの働き方改革

トラックなどのドライバーは長時間労働のうえ、重労働の荷役も行い、待ち時間も長い。それにもかかわらず報酬が少ないため、減少、高齢化しています。そのため「物流効率化に取組まなかった場合、現在輸送されている量の3割程度が運べなくなる」などの試算(NX総合研究所)が出ています。それを防ぐため、2024年までに働き方改革がトラックドライバーにも適用されました。内容はいろいろありますが、分かりやすく挙げると、

  1. 1日の運転時間を制限する(および適切な休憩を確保する)
  2. 契約にない荷役をさせない
  3. ムダな待ち時間を解消する

などです。

の物流のステークホルダーには、物流を委託する「発荷主」、実際に物流を請け負って運ぶ「物流業者」、さらに最終的な目的地(納品先)である「着荷主」があります。青果業界では運賃のみを提示して物流業者に委託するケースが多く、 荷役などの作業内容を契約で明確に取り決めていないことが多いため、これまでは「積んできた商品はトラックドライバーが荷降ろしする」ことが慣例化していました。
その際、商品がパレットに積んであれば、フォークリフトで降ろすので、大きな問題にはなりません。しかし青果物の場合、パレットに載せずに荷台に直接置く「ベタ積み」の割合が、他の商品と比べて非常に多いとされています。ベタ積みの場合、ドライバー1人で荷降ろしすると、大型トラックでは2時間以上かかることがあります。 卸売業者の物流担当部署も手伝いますが、非常に重労働です。
ベタ積みが多い主な理由としては、

  1. 産地が大消費地から離れていて長距離輸送になるので、少しでも積載効率を上げたい
  2. 青果物の形状に合わせたダンボールが標準的なパレットに載らない

などがあります。

また、特に大都市の拠点市場では、前日夜にトラックの到着が集中し、「荷を降ろすまでの順番待ち時間」が非常に長くなります。
これらを解消するため、国(国土交通省、農林水産省)では発荷主などに対し「標準型レンタルパレットの利用」を進めています。また卸売市場業者でも「荷降ろし予約システム」を導入し、どのような商品がどのような形態(パレット積みかベタか)で、いつ頃到着するかを事前に把握し、効率的な人員の振り分けを行っています。これらの対応もあって、現状では「全く運べない」「届かない」という、大きな事態にまでは至っていません。

現実的な影響とその対策

ただし現実問題として、「運送コストが上がった」「長距離輸送の日数が1日伸びた」という場面が増えてきたようです。また輸送日数が伸びるために、これまで以上に鮮度保持に万全を期す必要があり、冷蔵施設など「コールドチェーン確立への投資」が不可欠になっています。これらのコストについては、甘んじて受け入れるしかありません。
まず運送コストについては、農産物の適正価格もそうですが、持続的に輸送機能を発揮してくれる方々に対する対価です。ドライバーの働き方改革や、物流業者に対する優越的地位の濫用防止が叫ばれてはいても、中小・零細物流業者の倒産は毎日のように発生しています。つまり、まだまだ物流業者は厳しい経営を強いられているのです。その中で物流費を値切れば、自社の運送を引き受けてくれなくなるかもしれません。そうなれば新たな物流業者を探すことになりますが、条件が折り合わずにすぐに決まらなければ、商品の物流が滞ってしまいます。
またコールドチェーン確立のため、鮮度保持施設なども必需品となりました。生鮮食料品の鮮度を落とすのは、保冷車で運んでいる時よりも「到着後に(常温で)保管している時」の方が多いとも言えます。どんなに生産コストが上がったとしても、最終的な価格は品質ありき。その品質が損なわれてしまえば、それまでのコストと労力が無になってしまいます。

ますます増える物流費をしっかり把握して利益管理

これまで述べてきたように、ドライバーの働き方改革を進める中で、青果業界では物流関連のコストがかかるようになってきました。その中で利益を上げていくには、大前提として、「物流コストの正確な把握」が必要になります。これは出荷する発荷主だけでなく、消費地で配送を担う仲卸などでも同じことです。
出荷する発荷主の物流コストの算出は、物流業者に委託した金額やレンタルパレットの使用料などが中心ですので、比較的簡単です。しかし、仲卸などが行う消費地での配送はどうでしょう。大型スーパーマーケットの配送センターフィー(納入金額の10数%など)のほか、庸車への委託費もあります。また自社便による核店舗への配送では、人件費、減価償却費、ランニングコストなどがあるでしょう。非常に複雑な場合も考えられるかもしれません。
その中で比較的、物流コストを把握しやすい方策としては、「物流を外注する」「物流部門を別会社にする」「物流業者をグループ化する」などが挙げられます。要は「物流機能を会計上独立させる」ということです。
また、あくまで暫定値(または推計値)かもしれませんが、専用の販売管理ソフトでは、「容量(または重量)に応じた物流費を必要経費に組み込む」ことができます。おのおの利益の把握には仕入価格、販売価格、さらに販売コストの算出が必要ですが、販売コストの中でも案分が難しいとされる物流コストを一定の算式の下に組み入れることで、取引ごと、さらには商品ごとの利益を把握できるようになります。

働き方改革にAIを活用

さらに、卸売市場の荷待ちを解消するために、AIを活用した専用のシステムを導入するケースも出てきました。
概要としては、ドライバーがスマートフォンにアプリをダウンロードして利用登録する仕組みになっています。 その後、出発時に荷降ろしの希望日時や積載商品、数量、荷姿(パレット積み/ベタ積み、パレットの枚数)などの情報を送信します。特徴は「1パレットは165秒」「バラはケース8秒」など、「標準的な荷降ろしの時間」をシステムに組み込んでいることです。それにより「このトラックの荷降ろしは、何時間(何分)かかる」とAIが作業時間を算出し、人員配置などの受け入れ体制を組むのです。
通常は荷降ろしスペースが複数ありますが、専用のシステムでは、スペースごとの「どの時間帯が空いているか」「どのような内容の商品を荷降ろしするか」などの情報(予約情報、現在進行状況)が、一覧表になってきます。また、混雑している場合や、受け入れ人員が足りない場合などは、「どの時間帯に、どのスペースで作業したらより効率的か」を判断し、システム上で特定トラックの荷降ろし作業を移動することもできます。
導入会社では、以前、荷降ろしは「早いもの勝ち」であったため、必要以上に早く到着するトラックが多かったとのことです。つまり、到着後の長時間待機を避けるため、それと同程度早く到着する」ことで、結果として長時間の無駄な待ち時間が発生していたのです。しかしこのようなシステムを導入することにより、無駄な待ち時間を削減し、トラックドライバーの働き方改革に寄与しています。
そのAIは物流問題やドライバーの働き方改革以外に、人材確保、そして人材育成にも活用されています。しかも青果流通業者自身が主導して、システムやツールを開発するケースが出てきました。次回(最終回)は、そのような事例をご紹介します。

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