- 2020年4月
- 他社事例を参考に「社員のコミュニケーション不足を解消するためのツールを何か導入できないか」という相澤の発言からスタート
- 2020年4月
- 左近允をリーダーとし、開発がスタート
- 2021年5月~7月
- プロトタイプで社内の実証実験
- 2021年10月
- 全社に社内版をリリース/製品版の開発をスタート
- 2022年4月
- 製品版の販売を開始
2020年4月、コロナ禍によりリモートワークを余儀なくされている中で、人事創夢本部の相澤は社員間のコミュニケーションが希薄化しつつある状況に危惧を抱いていた。ある日、相澤が見つけたのは仮想オフィスを導入している他社の事例だった。
「もともと当社は社員の約60%がお客さま先や日立グループの事業所に勤務しているため、組織や会社に対する帰属意識の維持・向上は人事創夢本部の大きな課題でした。全社的なイベント開催や懇親会の補助などにより社員のつながりをサポートしてきましたが、コロナ禍で出社も制限されてしまいました。そんな中で、他社の仮想オフィスの導入事例を見つけ、当社でも導入できないかと考えました」
相澤が会議の席上で口にした仮想オフィスのアイデアに興味を持ったのが、スタートアップ事業本部で新規事業の立ち上げを担当していた左近允である。
「相澤さんから話を聞いたのは、社員の幸福度を高める社内会議の場です。何気ない一言という感じでしたが、興味を惹かれました。当時、私は働き方改革に関する新規事業の担当だったので、まず社内で人事創夢本部の課題を解決して、効果が実証できたら事業化しようと考えました。他社が利用している仮想オフィスを分析してみたら、あまり当社が求める要件に合致するものがない。自分たちなら、もっといいものがつくれると思い、本部長へ事業化に向けた開発を提案しました」
社員が求める仮想オフィスは2Dなのか3Dなのか。どんな機能を搭載すればコミュニケーションを活性化できるのか。左近允と相澤はさまざまな試行錯誤を繰り返しながらプロトタイプの開発を進めた。仮想空間に360度3Dのオフィスを再現するために、2人で休日に出社してフロアの隅から隅まで写真を撮ったこともあったという。「苦労して3Dのオフィスをつくったのに、結果は思わしくありませんでした」と苦笑いする左近允。
「そもそも出社が少ない上にフリーアドレス制なので、職場への愛着が薄い。新入社員に至っては、ほとんどが入社して数えるほどしか出社していないという状況です。ゲームやメタバースのような3Dの演出に凝るよりも、平面的な2Dマップでオフィスを構築し、コミュニケーションツールとしての機能や使いやすさを追求することにしました」
左近允と相澤は、実験の対象者を集めて説明会を開催。依頼するだけではなく、その場で各自のパソコンにインスト―ルしてもらい、環境設定までその場で行う。さらに、自分たちの想いに共感してもらうためのメッセージを発信した。それが「みんなで“わくわく”する未来のオフィスをつくろう」である。2人には、仮想オフィスの導入により実現したいことがあった。
「オフィスに出勤していれば、偶発的に今まで知らなかった他部署の人と出会って話す機会もあります。仮想オフィスをつくるなら、そうした“わくわく”する出会いが可能な場所にしたいと思いました。当時はコロナ禍の行動制限のため、みんなで集まるイベントは開催できない。でも、仮想オフィスで自然に社員がつながる環境を提供できれば、一体感を醸成することができる。リモートワークにおけるコミュニケーションと業務効率の向上という目標から一歩踏み込んで、社員のエンゲージメントを高めるツールにしたいと考えていました」
約3ヵ月にわたって行われた実証実験では、約8割の利用者が仮想オフィスにより孤独やさみしさが改善されたという結果を得られた。さらに2人を喜ばせたのは、利用者から800件を超える機能追加や改善の要望が届けられたことだ。要望を見た左近允は、対応の優先度を検討するのに苦労したと言う。
「安否確認や勤怠時間の管理、スケジューラーといった基本的な機能に加えて、Microsoft Teamsとのシームレスな連携や出社予定日の座席予約など、利便性の向上を追求しました。他社が開発した既存の仮想オフィスはリアルタイムのコミュニケーションを目的にしています。でも、私たちは社員同士が都合のいいタイミングでつながることを重視して開発しました。緊急の用件でなければ、メンバーのコメントやメッセージへの返信も手の空いている時でいい。フォローしておけば他部署の社員でも探さずに、すぐに接触できる機能は利用率が高く好評です。新入社員と役員がコメントをやり取りすることも、仮想オフィスの中では日常的に行われています」
そして、社内版のリリースと同時に、事業化に向けた製品版の開発が始まった。通常、新しい製品やサービスはマーケティングベースで事業部の要請により開発するのが常である。今回の仮想オフィスのようにスタッフ部門の発想が契機になった開発は珍しい例だった。しかし、それは今まで実績がなかっただけで、できる環境は「当社にはある」と相澤は言う。
「当社にはOver the Topという新規事業起案プログラムにより、部署や担当業務に関係なく誰でもアイデアを応募できる仕組みがあります。社員なら誰でも新たな事業の創造にチャレンジできる。日々の業務においても、新しいことへの挑戦を後押しする風土環境は、当社ならではのもの。若手の社員たちが、当社の成長に貢献する新規事業を提案してくれることを期待しています」
仮想オフィスはクラウドサービスとして2022年4月に販売を開始。導入実績を重ねている。開発リーダーを務めた左近允は会社の未来をこう語る。
「当社は社員みんなが“わくわく”して働ける会社だと思います。私と相澤さんも、“わくわく”しながら新規事業の開発に挑戦しました。私は仮想オフィスを通じて、“わくわく”できる環境を多くの会社に伝播させたい。今年、私の部に配属された新入社員から、仮想オフィスの開発を手がけたくて当社を志望したと聞いて、とてもうれしく思いました。これからも“わくわく”の種を広めて、育てていきたいと考えています」
日立ソリューションズ・クリエイトは、将来ともに“わくわく”を作れる社員との出会いを待っている。