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テクノロジー

医療の現場でAI活用を進めるメリット・デメリット

AI(人工知能)は人間の知能を人工的に再現したもので、コンピューターでありながら自ら学び、収集するデータの量などに応じて成長が期待できるという特長があります。将来、あらゆる領域で人に代わってAIが業務を担当するようになるともいわれていますが、高度な知識が要求される医療分野においてはどうでしょうか。ここでは医療分野におけるAIの活用例と、AIによって得られるメリット・デメリットを紹介します。

  1. 医療分野のAI活用
  2. 医療の現場でAIを活用するメリット
  3. 医療の現場におけるAI活用のデメリットや注意点
  4. 医療現場におけるAIの活用例
  5. 医療現場におけるAI活用の展望

医療分野のAI活用

AIは「Artificial Intelligence(人工知能)」の略称で、1950年頃から長い年月をかけて研究・開発されてきた技術です。機械学習やディープラーニング(深層学習)の発達と、多くの情報を収集し活用するためのビッグデータの解析が進められている現在では、AIは飛躍的に進歩しました。
AIはIT産業や教育などにとどまらず医療分野への導入も期待されており、患者のカルテを解析しデータを収集したり、検査データから特定の疾患や患者の状態を読み解いたりする実証実験も進められています。2016年には日本国内で白血病患者の特定がわずか10分で達成されるという実績を挙げました。
今後、医療分野にAIを導入すると、人間と遜色ない診断や処方が可能になると考えられています。人に代わって人と同じ業務がこなせるようになると、医療現場での人材不足や医療費の増大といった問題の解消にも役立つ可能性があります。

医療の現場でAIを活用するメリット

医療の現場でAIを活用することで得られるメリットとしては、業務の効率化や診断精度の向上、医師の負担軽減、医療過誤の防止、地域格差の是正などが挙げられます。ここでは、それぞれのメリットについてもう少し詳しく見ていきましょう。

事務作業の効率化

日々来院する多くの患者のレセプト業務(診療報酬明細書の作成などの業務)をAIが自動的に処理すれば、作業にかかる工数と人件費の両方が削減できます。結果として、事務作業の効率化が実現できるでしょう。

診断の精度向上

次に、患者の検査・診断・処置データを収集し、分類や分析をさせることで診断がさらに高精度化し、医師や技師の業務を補助できるようになります。AIは膨大な情報からパターンを見つけて分類・分析することが得意分野です。人が膨大な情報を一つずつ分析するには時間がかかりますが、AIなら時間をかけずに精度の高い診断ができる可能性があります。

医師の負担軽減

昨今、医療機器の高性能化により、診断に用いる画像の質が上がりましたが、同時に量も増えて医師の負担がさらに増えているといわれています。また、せっかく情報量が増えても、それを基に正しい診断ができる人材が不足しているという状況でもあります。そういった医師を支援するという意味でも、AIによる画像診断のサポートは効果を発揮するでしょう。

医療過誤の防止

AIの精度を高めた上で医療に導入すれば、重篤な症状を見落としたり、適切な分析や処置を誤ってしまったりする「医療過誤」の防止につながります。近年では医療従事者の労働時間が長すぎることが問題視されており、2024年度からは医師の時間外・休日労働時間の上限規制も適用されます。現場の業務を効率化させて人的な負担を減らすことがヒューマンエラーによる医療ミスの防止に効果的として、AIの導入が期待されています。

地域格差の是正

地域によって医師の数は異なり、地方では医師が足りないというケースも珍しくありません。そのため、地域格差が問題視されていますが、AIを活用すれば診療データのみをやり取りして診断できるようになり、現地に医師がいなくても対応できるようになります。AIによる診断の自動化や医師のサポートが実現すれば、少人数でも多くの診察・診断ができるようになるため、地域格差の是正に役立てられます。

医療の現場におけるAI活用のデメリットや注意点

さまざまなメリットが得られる一方で、デメリットや注意点も存在します。医療の現場でAIを活用する際には、デメリットや注意点についてもしっかりと理解を深めておくことが重要です。

人の判断も必要

AIによって高精度な診断が実現できるとしても、すべての業務をAIに任せることはできません。AIだけに業務を任せてしまうと未学習の症例や難症例に対応できず、医療ミスを引き起こしてしまう恐れがあります。AIを活用する上では人間と共同で業務にあたるのが望ましく、最終的な判断は人間が行うべきです。

責任の所在が不明確になる

医療現場においてもAIに全ての責任を課した場合、責任の所在があいまいになる恐れがあります。現状ではAIと人間が協力し合ってお互いを補助していく方法がもっとも理想的といえるでしょう。

大量の症例データが必要

AIが正しい診断を行うためには、大量の症例データが必要です。AIが学習する機能を備えていたとしても、正しいデータを大量かつ正確に学習しなければ意味がありません。そのための症例データを用意する必要がありますが、個人情報も含まれているため取り扱いには注意が必要です。大量の症例データを用意することの難しさだけでなく、個人情報を適切に取り扱う必要がある点は注意点として覚えておきましょう。

医療現場におけるAIの活用例

医療の現場では既にAIが活用され始めています。ここでは、そのなかからいくつかの活用事例を簡単に紹介します。

AI画像診断

AI画像診断の活用例としては、AIと画像認識を組み合わせて早期のがん検出を行うというものが挙げられます。特に形状が多様な早期胃がんは専門家でも診断が難しいとされていますが、画像認識技術についてディープラーニングを行ったAIは、陽性の的中率を93.4%、陰性的中率を83.6%にまで高めています。

AIオンライン診断

AIによるオンライン診断システムも医療アプリとして提供されています。AI機能による病名予測と病状に応じた近隣の病院情報の紹介だけでなく、医師とのオンライン診療や、診断後の処方せんの配送などをトータルでパッケージングして提供するものです。感染症の蔓延にともなう自宅療養や自粛生活にも対応できるサービスを提供しています。なかにはオンライン診療の結果をデータ化し、患者側で所有できるサービスもあり、医療と密接につながりながら正確な健康情報を閲覧できる利便性の高さも実現しています。

AI処方

医師による診断の結果、必要とされる薬が処方されますが、患者の体重や体調によって処方は変えなければなりません。しかし、一日に多くの患者を見る医師は一人ひとりに細かく対応することが難しいでしょう。そこで、AI処方では患者の体重・体調だけでなく血圧や前回服用時のデータなどから、より細かく適切な処方の実現が可能です。
その他にも、目薬の処方設計における防腐効果をAIが予測し、適合処方の創造が可能になった事例も報告されています。AIによって患者により最適な処方を実現するだけでなく、医薬開発においては効率化や開発スピードの向上に役立てられています。

医療現場におけるAI活用の展望

今後医療の現場では、よりAIの活用が進むことでしょう。現在では、少量の血液に含まれる因子からがんの可能性を判定するシステムや、患者の義歯などを自動設計するシステム、歯の色調を再現するための色判定システムなども実現に向けて研究開発が行われています。将来的には手術中に医師や看護師のアシストをするAIも普及するといわれています。通信速度や通信性能が向上すれば、AIがロボットを操作する遠隔治療も可能になるでしょう。
現在AIは5G(第5世代通信移動システム)や3Dプリンターなど、既存のテクノロジーと結びついて飛躍的な進化を遂げています。医療におけるAIの活用は人手不足を補い、人的ミスを防ぐだけでなく、前述のような活用の展望や患者の自宅療養を助けるなど、非常に将来性が期待されています。

医療現場において、AIの活用は今後ますます増えていくと想定されます。現在でも腫瘍や将来の病気リスクの早期発見などに用いられていますが、AIの精度が高くない状態で医師に代わって代替診療を行うことはまだリスクが大きく、膨大な患者情報やデリケートな医療データを扱う際のセキュリティ対策についても考慮しなければなりません。あらかじめメリットとデメリットをしっかりと知った上で、どのように活用していくかを検討する必要があるでしょう。

※2020年10月8日に公開した記事を再編集しています

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